Log No. 3107-01-12 02:54:31

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 人工の細胞は人間の生体細胞を完全に再現し、組織を成し、臓器を生んだ。肌はしなやかで柔らかく、骨は緻密かつ強靱で、神経の伝える感覚は痛みも快楽も人間の感じるそれと変わりない。人間のように二足で歩き、かと思えば走ることもでき、声を発し、飛び跳ねて互いに抱き合うこともありながら、眠り、食事をとり、老廃物を体外に除去することも厭わない。学術的な定義に則れば、彼らの身体は既に生物のそれと見て何ら差し支えないほどの域まで至った。  けれども、身体を持つだけでディアが人になることはできない。  また一つには、心が必要だ。人間と同じ心がいる。意識が、自我が、魂が必要なのだ。  これは身体ほど簡単にはいかなかった。  もちろん、ディアが身体を持つに至るまでにも、人類は数え切れないほどの技術の変革を経たのだけれど、しかしそれでも、心を作り出すのは容易ではなかった。  彼はディアの心を作ることを、心の底から切望した。人の心を、人工の身体に宿す術を模索した。  深慮の末、彼が選んだのはプログラムだった。
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