Ⅺ 親征、ダールガット

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「上司……って、見てくださってるんですねえ」  サンドラの台詞に感慨深い思いで言えば、髪を梳かして結いながら「何当たり前のことを仰ってるんです?」と胡乱(うろん)な声音が返ってくる。 「んー……サンドラさんたちの采配ってことはみんなわかるでしょうから、わたしは大事にしとかないといけない荷物、ってとこかなー、と」  言った途端、くるりと回転させられ、サンドラの真剣な翡翠が目前に迫った。 「王統院の連中は知りません。ですが、セルシア院においては、あなたは真に『セルシア』と認められています。あなたに声をかけていただいたら、皆嬉しく思うし、意見を求められたり採用されたりすれぱ、誇りに思います。サクラ様、あなたはすでに、それだけの知性と行動を示していらっしゃるんです。もっと自信をお持ちください。それに、我々がいくら頑張ろうと凡愚(ぼんぐ)なら取り繕いようがない。ですが、サクラ様にその必要は感じていません。堂々とお振る舞い下さい。文化の差でそぐわないことを仰っても、それこそそのくらいは我々が対処するところです」  サンドラの言葉も眼差しも、力強い。  サクラは自信をくれようとするサンドラの気持ちを頼もしく思いながら、深く頷いた。 「さあ、出来ました。今日を乗り越えたら、明日は朝、お好きなだけ眠ってください。そうそう、皆の前で、我々に敬称などつけてはいけませんよ。きちんと呼び捨ててください」  最後に額飾りを装着され、サクラは「ありがとうございます」と、屈んでいたサンドラを抱きしめてから、部屋をあとにした。  イリューザーを伴い、クレイセスに手を取られ、長官たちを従えた形で案内されるままに部屋に入れば、講堂めいた空間には五十名ほどがひしめいていた。ざわついた室内がしんと静まり返り、自然に開けた真ん中を、まっすぐに歩いていく。
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