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Ⅰ 目覚め
「戴冠式の準備は整ったというのに、サクラは目覚めないな」
「あれほどの力を身に受けられたのです。馴染むのにも、時間がかかるのでしょう」
ユリウスの答えに、ハーシェル王は頷く。
最奥に運び込まれて八日。咲羅の体を金色の粒子が包み、キラキラとやわらかな光を放っていた。
咲羅の額には、豪奢な飾りが煌めいている。深紅の石を中央に、左右を一回り小さい透明な石が四つずつ、銀色の台座におさまっているものだ。紅い石の下には、涙型の石も下がっている。これはセルシアとして大地が認めた証であり、最初は本人でなくては外すことがかなわない。また、王冠と同じく、本人以外には着けることの出来ないものだ。触れることは出来るが、本人でない者が着けようとすると、水となって形を失う。
すでに咲羅の似顔絵と、額に顕現した証は写し取らせ、民に向けて報せた。
咲羅が眠っている合間に、ほかにも多くのことが進められた。そして多くの変化が、全土から寄せられている。
まず、実り。空だった麦は、人手も足りないことから放置されていた。しかしその刈り残しが、見事な実りを見せたのだ。ほかにも多くの根菜類が、痩せ衰えたようなものばかりであったのが肥え太り、萎んでいた木の実は張りと潤いを取り戻した。
大神殿前の噴水も、今は勢いよく天に向けて水を噴射し、その聖性を取り戻した姿を示している。
怪我や病に喘いでいた者は、皆跡形もなく完治し、苦しみから解放された。何よりも皆が驚喜した奇跡であった。
そして助かったクレイセスが意識を取り戻し、まず最初にした仕事。それは騎士の誓約書を書き換えることだった。それを以てセルシア院の騎士たちに詳細を通達、救護舎の少年が咲羅の正体であると知った多くの騎士たちにより、形ばかりではない、心からの忠誠を捧げる意志が示された。
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