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「わたしは……乗って揺られてるだけだったので」
初日に、クロシェが「眠っても大丈夫」と言ってくれたのと、だんだんと慣れてきたのもあり、途中から騎乗したまま眠っていたりもしたのだ。一緒に騎乗している彼らが落とすはずはないという、安心と甘えがあってのことだが、それで体力はずいぶんと温存出来た。
しかし彼らは、周囲に、サクラにと気を配る先が多くあり、そういった休み方は出来ない。サクラよりもずっと、神経も体力も消耗していることはわかっていたが、どうしたら彼らを楽に出来るのかはわからなかった。
「サクラ様が気遣ってお声をかけてくださったことは、皆励みになっておりましたよ。あなたは将として、『奮起』させることがうまいと、皆で話しておりました」
「え? そう、でしょうか」
いつの間にそんな話、と言えば、お休みになるのが早いので、と微笑まれる。サクラが寝入ったあとも、彼らは旅支度を調えたり、伝令の処理などをしてくれているから、そのときに話題になったのだろう。
「体がキツくなると、気持ちも滅入るかやさぐれるかすることはありますからね。それをいたわってくれるのが上司というのは、今の自分が頑張っていることを見ていてもらえてるという安心と、承認欲求が満たされます。するとね、もう少し頑張ろうという気になる。長い道のりは、その『もう少し』を繰り返して乗り越えていくのですよ。あなたはそれを、教えられた訳でもないでしょうに、自然となさる」
ちょっとお痩せになりましたね? とドレスのうしろを編み上げながら言うサンドラは、長めに余ったリボンに不満げな溜息を漏らす。
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