Ⅺ 親征、ダールガット

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 膝をついているほとんどの者が、「セルシア」を誘うことによって栄誉を得ようとしているのは、サクラにもわかっている。しかし、もうそんなことをしている場合ではないのだと、突き付けなくては。 「しかしながらこの雪では、フィルセインも動けますまい。歓迎の宴を準備しております。長官たちにもお目通りしたいと願う娘たちも多く、どうかご臨席を」  食い下がる男に、サクラはクレイセスたちに見合いが用意されていることを知る。これもまた、すべてが終わってからでもいい話だ。 「雪中にあって、すでに奇襲はありました。そういったことのすべては、この防衛戦が終わったのちにでも」 「まあそう仰らず……」  と話を続けようとした別の男を遮るようにして、サクラは立ち上がった。イリューザーもお座りの姿勢になり、いつでも動ける態勢だ。 「歓迎してくださるというのなら、私に砦を案内してください」  微笑みは絶やさず、サクラは静かに言った。 「取り返した二砦(にさい)の状況を知っておきたいのです」 「いや……そんなところに子供が……いや、セルシア様が行くような場所では」  ほろっと出た本音に、サクラは失笑する。 「兵の数は、把握されていますか」 「か、数?」 「ええ、数です」  食い下がった二人を交互に見るが、二人ともが顔を見合わせる。 「前回フィルセインは三千を投入しました。今回は、報告によれば一万二千」 「いっ……ちまん……」 「にせん……?!」  ぎょっとする彼らは、それすら把握していなかったのだろう。部屋がざわついたことを思えば、今まで知ろうとしなかったのは、彼らだけではないようだ。
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