Ⅺ 親征、ダールガット

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「ガゼル、砦への案内を。クレイセス、各営所長に話が聞きたいので召集を。サンドラは捕虜の待遇と先発隊の状況確認、クロシェは兵糧の現状把握を。視察から戻り次第報告して下さい」 「御意」  四人の声が重なり、ガゼルが素早く動いてサクラの手を取る。イリューザーも立ち上がり、問答無用の空気を纏って、サクラは講堂をあとにした。 「本気で砦の視察に?」  講堂を出てからガゼルの手を放すと、明るい茶色の瞳が窺うように首を傾げて問う。 「はぁ……いけませんか? 実際のところを、自分の目で見ておきたいのは本当なんですけど。状況は先に来ていたガゼルさんが一番把握してらっしゃるでしょうから、ガゼルさんが止めるならやめておきます」 「いえ。社交を回避するための口実かと思ったもので。まあ確かに、ご覧になるなら今日しかないでしょうね。今後はサクラ様のご予定を秘匿しておくのは難しくなるでしょうし」  予定を把握されれば、先回りされてしまうことは懸念される。 「騎士も兵士も喜びます。案内しましょう」  ガゼルが快活な笑みを見せ、各々がサクラの指示を遂行すべく、そこで散った。  砦までは簡素な馬車で、イリューザーも乗せて行った。確認したいのは最前線となっている二砦の状況。サクラが到着する予定は本来まだ先だったこと、そして膠着状態の今なら、足を踏み入れることはまだ出来るとのガゼルの判断だ。  ダールガットの主要な街道を守る砦は、もともと四砦。そこにリシュティーノが、五年の歳月と十万人以上の人手、それに当時の蓄財の半分を投入して六砦を築いた。  賑わう街を抜けると、武装した兵や騎士の姿ばかりが目につくようになる。簡素な馬車は狭く、イリューザーを乗せるとそれだけで狭い。ガゼルは現地の騎士三名を従え、騎乗して護衛に当たってくれていた。
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