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街に近いのは石造りの堅牢な砦。サクラからするとちょっとした城に見える規模のものだ。そしてさらに一キロほど進めば、先程抜けてきた砦よりも小さな規模の砦があった。
馬車が停車し、イリューザーが先に降りる。それから差し出されたガゼルの手を取り、サクラは雪が舞い始めた砦に足を下ろした。
途端、まわりにいた兵たちから、イリューザーに慄いていた雰囲気が一掃され、「セルシア?!」「セルシアだ」「え、ホンモノ?!」というささやきが聞こえる。ここを守っている騎士たちが四方から駆け寄ってくると、ザッと跪いて騎士の正礼を取った。
「セルシアにおかれましては、このような場所におみ足をお運びいただき、恐悦至極」
頭こそ何もつけていないが、マントの下に甲冑をつけた騎士が声を上げるのに、サクラは目の前に歩み寄る。
「急に来てごめんなさい。この砦の状況を見ておきたくて。案内をお願いします。あなたのお名前は?」
「はっ。アフディールと申します」
「アフディール、戦線の現状と被害状況を説明してください。ここから、フィルセインの駐留場所は見えるんですか?」
意外なことを聞かれている、のか、アフディールは顔を上げてサクラを見上げた。ハーシェルのような青灰色の瞳に、頬に二本、爪痕のような傷が走っている。長さはサクラから見えないが、パサついた濃い金髪をうしろでひとまとめにしている彼は、いかにも武人という感じの風情だ。年の頃は、シェダルと同じくらいに見えた。
「……ご案内します」
わずかな逡巡を呑み込むように、立ち上がった彼はガゼル並みの上背で、サクラはちょっと仰け反った。一拍遅れてほかの騎士たちも立ち上がったためだが、大きい彼らが甲冑をつけていると、さらに圧迫感が増す。
こちらへ、と促されるままに歩き出せば、イリューザーも付いてくる。
石造りの塔に入り、広くはない螺旋階段をのぼれば、封鎖されている砦の向こうが一望出来た。
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