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「どのくらいの深さの濠ですか?」
聞けば、当然こちらの世界の単位で答えられ、サクラはしまったと、失念していた迂闊さに額に手をやった。だいぶ、慣れては来たのだ。しかし、数字が苦手なサクラは、とっさに換算が出来ない。
「サクラ様を三十人分てとこですかね」
ガゼルが助け船を出してくれて、サクラはザッと五十メートルもの深さがあることを知り、驚いた。
そして、それを埋め戻したフィルセイン軍も、またすごい。
「わたし、報告では一万二千と聞いてましたが、実際には一万に満たない?」
「いいえ。三千余りの兵が、ダールガットに集結しつつあります。おそらく、フィルセインは数で押してくるつもりでしょう」
最初の襲撃が三千で、二砦を落としたのだ。その数さえあれば落とせると踏んだのだろう。ダールガットに置いていた兵数は多くない。今、密かに近隣に集結させているが、それでも総数は五千だ。練度が違うと言っても、数はもう少し、減らしておきたかった。
サクラはアフディールにさらにいくつかの質問を重ね、空を仰ぐ。
今は二月。この地域はそろそろ気温が緩むが、三月に入る前にもう一度厳しい寒気に見舞われるという。
「フィルセインは兵糧も十分みたいですね」
「腐っても元公爵ですからね。もともとの広大な領地に加え、侵略した土地からは容赦なく吸い上げています」
忌々しげに答えるアフディールは、駐屯している方向を睨む。
「フィルセイン領内や、侵略された地域に配属されていた騎士たちの消息、こちらには来ていますか」
「それは……」
明らかな躊躇いを見せ、アフディールはガゼルをちらりと見遣る。
「構いません。知っていることがあれば教えてください。……それほど、いい話が聞けるとも、思っていません」
アフディールをまっすぐに見上げてそう言えば、彼はそれでも少しの間逡巡したのち、ようやく口を開いた。
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