Ⅰ 目覚め

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 咲羅が眠りについて十日目の、昼間近。  寝台の下に陣取り、微動だにしなかったイリューザーがピクリと耳を動かして顔を上げた。のそりと立ち上がった姿を見て、部屋に詰めていたクレイセスたちは寝台に駆け寄る。  咲羅を包んでいた金色の粒子が、不意に空気に溶けた。  イリューザーが胸の上で組まれている手の、肘を鼻先でつつくと。  睫毛が震え。 「イリューザー……良かった、無事ね?」  黒い瞳が光を映し、落ち着いた声音が放たれた。 「サクラ」 「サクラ様……!」  全員が安堵とともに一斉に呼びかけた声に、ゆっくりと首を巡らせ、クレイセスを見て目を見開いた。上体を起こし、泣きそうな表情でまっすぐにクレイセスを見つめる。 「生き、てる……?」 「ええ。生きています。あなたのお陰で」  答えると、泣きそうな表情のまま微笑んだ。 「ユリウスさんは……?」 「彼も生きています。先程まで、ここにおりましたよ」 「リクは……?」  当然訊かれることに、クレイセスは小さく息をつき、告げる。 「亡くなりました」  すっと、咲羅から笑みが消えた。  ガゼルが、横から言葉を添える。 「あのまま、眠るように逝きました。苦しみは、少なかった」  咲羅の目が、みるみるうちに涙で潤み。  閉じた瞬間に頬を伝う。 「間に……合わなかったの……」  静かに嗚咽を漏らす咲羅に、サラシェリーアが手を伸ばして抱きしめた。  彼らを失いたくなくて力を欲したのだと、ここにいる誰もが理解している。 「リクは……そんな、致命的なほどの傷、だったんですか……?」 「傷自体は、深かったが致命的ではなかった。彼の死因は、刃に塗られていた毒です」 「毒……」  クレイセスの説明に、咲羅は顔を上げた。 「私もユリウス殿も、平素から毒物への耐性をつけています。彼にはその耐性がまだなかった。それに……いえ」  言い澱んだクレイセスに、視線で先を促す。
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