135人が本棚に入れています
本棚に追加
咲羅が眠りについて十日目の、昼間近。
寝台の下に陣取り、微動だにしなかったイリューザーがピクリと耳を動かして顔を上げた。のそりと立ち上がった姿を見て、部屋に詰めていたクレイセスたちは寝台に駆け寄る。
咲羅を包んでいた金色の粒子が、不意に空気に溶けた。
イリューザーが胸の上で組まれている手の、肘を鼻先でつつくと。
睫毛が震え。
「イリューザー……良かった、無事ね?」
黒い瞳が光を映し、落ち着いた声音が放たれた。
「サクラ」
「サクラ様……!」
全員が安堵とともに一斉に呼びかけた声に、ゆっくりと首を巡らせ、クレイセスを見て目を見開いた。上体を起こし、泣きそうな表情でまっすぐにクレイセスを見つめる。
「生き、てる……?」
「ええ。生きています。あなたのお陰で」
答えると、泣きそうな表情のまま微笑んだ。
「ユリウスさんは……?」
「彼も生きています。先程まで、ここにおりましたよ」
「リクは……?」
当然訊かれることに、クレイセスは小さく息をつき、告げる。
「亡くなりました」
すっと、咲羅から笑みが消えた。
ガゼルが、横から言葉を添える。
「あのまま、眠るように逝きました。苦しみは、少なかった」
咲羅の目が、みるみるうちに涙で潤み。
閉じた瞬間に頬を伝う。
「間に……合わなかったの……」
静かに嗚咽を漏らす咲羅に、サラシェリーアが手を伸ばして抱きしめた。
彼らを失いたくなくて力を欲したのだと、ここにいる誰もが理解している。
「リクは……そんな、致命的なほどの傷、だったんですか……?」
「傷自体は、深かったが致命的ではなかった。彼の死因は、刃に塗られていた毒です」
「毒……」
クレイセスの説明に、咲羅は顔を上げた。
「私もユリウス殿も、平素から毒物への耐性をつけています。彼にはその耐性がまだなかった。それに……いえ」
言い澱んだクレイセスに、視線で先を促す。
最初のコメントを投稿しよう!