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「私は死んでいておかしくなかった。あの傷は、明らかに致命傷でした。けれど、あなたの力を感じていた。恐らく『騎士の誓い』は、主の加護を、得るものなのだと思います」
「わたしが……あのときリクの手を断らなかったら……」
咲羅の思考がそこに行き着くことはわかっていた。だからクレイセスは黙っておこうとしたのだ。クレイセスは、リクバルドが咲羅に騎士の誓いを立てたことを知っている。咲羅がそれを、拒んだことも。
サラシェリーアの胸に顔を埋め、肩を震わせる咲羅に掛けられる言葉などなく。沈鬱な空気に包まれた中、ハーシェルがユリゼラとユリウスを連れて現れた。
「どうした……? 二人がサクラが目覚めたはずだと言うから来てみたが、何があった」
クロシェの説明に、ハーシェルは「そうか」と納得し、寝台に近付いて言った。
「サクラ。まずはセルシアとして立ってくれたこと、礼を言う」
おずおずと顔を上げた咲羅は、涙に濡れた目でハーシェルを見上げた。
「忘れないでいてやれ。出来ることはそれだけだ。それから、お前が助けた命に目を向けろ。失われた者、弱き者に目を向けられるのはそなたの美徳だが、そこにばかり囚われていては、立てなくなる」
優しくも、厳しさを含んだ声が、咲羅の心にしんと降った。
この人も、そうして立っているのだと思えるからだろうか。泣いてばかりいてはいけないと思いながら、どうしていいかわからなかった咲羅は、黙って頷いた。
そこにばかり目を向けても、もう助けてやることは出来ないのだ。そしてそこばかり見ていて歩き出せるほど、自分は強くない。
「全土から、報告が上がってきている。冬にもかかわらず、大地が実りを取り戻したと。そして何よりも皆が驚いたのが、怪我や病が快癒したことだ。少なくともサクラが選ばれたあの日は、この世界には病んだ者も傷ついた者も、ひとりもいなかった」
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