135人が本棚に入れています
本棚に追加
「これは、サクラ様が示された命の色です。セルシアは本人が認識している、世界の命の色を額に戴く」
ユリウスの説明に、あの日が甦る。
真っ白な雪を染めた鮮血。
それこそが、咲羅が認識した命の色だ。
その色を認識させたひとりであるユリウスは、いつもの静謐を纏ってここにいる。
「それから、ひとつだけ申し上げておきます」
見上げると、ユリウスは真剣なまなざしで言った。
「与えられた力を、不用意に行使なさいませんよう。そのお力は、あなた様の命を削って発現するものです」
「ユリウスさんには……わかるんですか? その、わたしが、どんな力を与えられたのか。わたし……実感として、何かを得たというのは、ないんですけど」
言うと、ユリウスは微笑んだ。
「今までの例からすると、そういった側面に遭遇した際、出来るか出来ないかを直感的に認識されるのだろうと思います。あなた様が望まれたのは治癒の力。長い歴史の中でも、ほんの数人しか手に入れることが出来なかった力です。恐らく、与えられているのはその力かと」
「治癒……」
言われて両手を広げてみるが、別に変わったところなど何もない。
どうやって使うのかも、思い浮かびもしない。
「すべて感覚的なものでしかないので、お教えする、というのが難しいのですが。『そのとき』が来れば、サクラ様が自在に出来るものです。ただ、不用意にお使いにならないでください。力を多く行使したセルシアは短命です。こと治癒の力は大きく命に関わると言います。どうかそうならぬよう、周囲にいる私どもを、頼りにしていただきたく」
濃茶の瞳は、いつにない強さで咲羅を見据えてそう言った。
気圧される形で頷くと、少し微笑み、ユリウスは会釈をして退室する。
「さあ、サクラ」
ユリゼラの声に、まだどこかはっきりとしない頭で見上げると。
最初のコメントを投稿しよう!