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「少し食事を摂って、それから動くといいわ。外に出るときには、暖かくして、ね?」
ユリゼラも顔色が良く、彼女の不調も治ったのなら嬉しいと、またぼんやりと思いながら、咲羅は頷いた。
*◇*◇*◇*
不明瞭な頭のまま、咲羅は「これももう見納めになりますのね」とサラシェリーアに言われながら、少年仕様に着替えて送り出された。セルシアに立極する者として正式に公表された今、「黒髪の少女」というのは目立って仕方がないという。今までとは別の意味で安全を確保するため、咲羅は改めて少年に扮していた。
外は一面雪に覆われていて、曇り空からはまた新しく、雪が舞い降りそうな気配がしている。凍り付きそうなほどの冷たい空気が、ぼんやりとしていた頭を少しずつ、はっきりとさせてくれる気がした。
最初に足を向けたのは、救護舎。クレイセスとクロシェが護衛に立ち、ガゼルとサンドラは城下へ行くための準備をしに行ってくれた。
「ホントは、こんな風だったんですね」
咲羅が走り回った講堂に、寝かされた人の姿はなく、代わりに丸テーブルがいくつも並んだ、ちょっとしたレストランのような雰囲気を醸す空間に様変わりしている。
二階、三階と、患者が収容されていた部屋はどこも空で、ハーシェルの言うとおり、救護舎は用を終えたと言わんばかりに、空っぽだった。
「サクラ、様」
一階に降りたところでバトロネスに遭遇し、彼が大きく目を見開いた。
「バトロネスさん」
「お目覚めになったんですね。良かった」
そう言って騎士の礼を取られ、咲羅は少し淋しい気持ちで言ってみる。
「今まで通りに接してください、は、難しいんでしょうか」
「紀と律は大切ですよ、サクラ様」
片膝をつき、見上げた彼は笑って言った。
「あなたがセルシアとして登極されることに、感謝申し上げる。差し支えなければ、忠誠を捧げる栄誉を」
いつもよれよれだったバトロネスが、こんなにきびきびとした話し方をすることにも、少し驚く。
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