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咲羅がそっと手を差し出すと、彼は「レア・ミネルウァの祝福多からんことを」と言祝ぎ、恭しく咲羅の甲を額に当てた。
「あなたの働きに感謝します。これからも、傷ついた者の助けとなるよう、お願いします」
「御意に」
礼を解かせ、立ち上がるように言うと、咲羅は気になっていた者たちの行方を訊く。
「二階にいた、侯爵邸から保護された人たちって、どうなったんですか」
「ああ……彼らは、衰弱していたのも回復しまして。六名は帰りたい場所があると言うので、里に帰れるよう手筈を整えて出しました。一人は、あまりに幼く出自も言えないほどでしたので、近衛騎士舎で預かっています」
「近衛騎士舎……」
クレイセスを振り向いて見上げると、「行くのですか?」と問われて頷いた。すると一瞬クロシェと顔を見合わせたが、観念したように「いいでしょう」と許可が降りる。
何か隠したいものでもあったのかなと頭を過ったが、一番小さな子が残されたことは気になった。そして同時に、クレイセスが請け負ってくれた二人の兄妹のことも思い出す。
咲羅は救護舎を出ると、近衛騎士舎に向かいながらその兄妹についても訊いてみた。
「あの兄に接触を図ったところ、許されるならあなたに仕えたいということでしたので、引き抜いて妹とともに近衛騎士舎におります。行けば会えますよ」
「そうですか。あの……なんかそういうの全部おさまったり形になったりしてるって、わたし、どれくらい寝てたんですか?」
「今日は、あの日から十日目です」
「十日?!」
そんなに寝てたのかと、咲羅はぎょっとした。頭がなかなか起きないのも、その所為かと納得もする。
案内された近衛騎士舎は、贅を凝らされた建物ばかりの王宮で、最も質素な造りをしていた。階数は五階と大きく、少し洒落たところもあるものの、全体的には咲羅の世界の、昔の木造校舎のような風情だ。
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