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 階段を上りきると、直径7メートルほどの円形の空き地の真ん中に、木製の小さな祠があった。観音開きの戸は開いていて、その中に女性を模した土偶(どぐう)が一体、入っていた。  祠の前には、他の子供たちが供えた彼岸花が落ちていた。私も、手に持っている彼岸花を祠の前に置く。  すると、花を置いた途端、目の前の祠から突風が吹いた。  私は思わず目を閉じた。  風が止んで目を開くと、私は言葉を失った。  祠のすぐ横に、化け物が立っていた。  黒い長髪、真っ赤な着物の裾から覗く白い手足。  でも、顔は、人ではなく獣の顔だった。  顔中を覆う黄色い毛。黒い吊り目に、前方に突き出した鼻。少し開いた口の隙間からは、先端の尖った大きな歯が見えた。  『それ』が大人たちの言う『守り神』であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。  『それ』の目は、私をじっと見つめていた。  これが神様……?  想像していた神の姿とあまりにもかけ離れていて、私は恐ろしくなった。  『それ』は、ゆっくりと私の方へ一歩踏み出す。    大丈夫。  私は選ばれたんだ。安楽の地へ行けるんだ。  必死に自分にそう言い聞かせて、その場から逃げ出したい気持ちを抑えた。  でも、『それ』が私の方へもう一歩踏み出したときだった。  『それ』の背後にあるモノと目が合った。  生贄に選ばれた、6番目の男の子の頭部だった。  男の子の頭部はその縦半分がなくなっていて、残り半分に付いている虚ろな目が私の方を見ている。  私ははっとして、『それ』の口元に目をやった。  『それ』の口の周りは、赤く汚れていた。  ――喰ったんだ。  子供を喰った。  生贄に選ばれれば安楽の地へ行けるなんて、嘘だ。  これの食い物になるだけなんだ。  私は、急いで階段の方へと走る。  でも、あと少しで階段に着くというときに、目の前に突然、『それ』が現れた。ついさっきまで、私の後ろにいたのに。  相手は化け物だ。  逃げられない。  このまま喰われるしかないの?  私は後ずさりしながら、涙を(こぼ)した。  そのとき、あることを思い出した。
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