12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
階段を上りきると、直径7メートルほどの円形の空き地の真ん中に、木製の小さな祠があった。観音開きの戸は開いていて、その中に女性を模した土偶が一体、入っていた。
祠の前には、他の子供たちが供えた彼岸花が落ちていた。私も、手に持っている彼岸花を祠の前に置く。
すると、花を置いた途端、目の前の祠から突風が吹いた。
私は思わず目を閉じた。
風が止んで目を開くと、私は言葉を失った。
祠のすぐ横に、化け物が立っていた。
黒い長髪、真っ赤な着物の裾から覗く白い手足。
でも、顔は、人ではなく獣の顔だった。
顔中を覆う黄色い毛。黒い吊り目に、前方に突き出した鼻。少し開いた口の隙間からは、先端の尖った大きな歯が見えた。
『それ』が大人たちの言う『守り神』であることに気付くまで、そう時間はかからなかった。
『それ』の目は、私をじっと見つめていた。
これが神様……?
想像していた神の姿とあまりにもかけ離れていて、私は恐ろしくなった。
『それ』は、ゆっくりと私の方へ一歩踏み出す。
大丈夫。
私は選ばれたんだ。安楽の地へ行けるんだ。
必死に自分にそう言い聞かせて、その場から逃げ出したい気持ちを抑えた。
でも、『それ』が私の方へもう一歩踏み出したときだった。
『それ』の背後にあるモノと目が合った。
生贄に選ばれた、6番目の男の子の頭部だった。
男の子の頭部はその縦半分がなくなっていて、残り半分に付いている虚ろな目が私の方を見ている。
私ははっとして、『それ』の口元に目をやった。
『それ』の口の周りは、赤く汚れていた。
――喰ったんだ。
子供を喰った。
生贄に選ばれれば安楽の地へ行けるなんて、嘘だ。
これの食い物になるだけなんだ。
私は、急いで階段の方へと走る。
でも、あと少しで階段に着くというときに、目の前に突然、『それ』が現れた。ついさっきまで、私の後ろにいたのに。
相手は化け物だ。
逃げられない。
このまま喰われるしかないの?
私は後ずさりしながら、涙を零した。
そのとき、あることを思い出した。
最初のコメントを投稿しよう!