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女性は、人ではなかった。
黄色い毛に覆われた顔に黒い吊り目、鼻は前に突き出ていて、まるで狐のようだった。
獣の顔、黒くて長い髪、赤い着物。
ミツさんの言っていた『それ』の特徴と同じだった。
『それ』は私をじっと見ながら、陽子ちゃんの身体から手を放した。
陽子ちゃんの身体が地面に落ちる。
私は愕然とした。
地面に横たわる陽子ちゃんには、頭部がなかったのだ。
こいつ、食べたんだ。
陽子ちゃんを食べたんだ。
私はパニックになった。
すると、『それ』は片腕を上げて、真っ直ぐ私を指差した。
次は、お前だ。
そう言われているような気がした。
私は恐怖のあまり、その場から逃げ出した。そして、近くにあるミツさんの家へと駆け込んだ。運良く玄関の鍵は掛かっていなかった。ミツさんの家に入ると、すぐに玄関の鍵を掛けた。
「ミツさん、あいつが来たの! どうしよう、食べられちゃうよ!」ミツさんにそう呼び掛けたけど、返事はない。
「ミツさん!」
居間の襖を開けたけど、居間には誰もいなかった。
そのとき、けたたましい電子音が鳴った。ちゃぶ台の上にある携帯電話からだ。
ミツさんだ。
そう思った私は、とっさに電話を手に取った。
非通知からの電話の着信だった。急いで電話に出る。
「ミツさん、助けて!」私は叫んだ。
「え、菜緒ちゃん? どうしたの?」ミツさんの焦ったような声が聞こえた。
ミツさんの声を聞いて少し安心したのか、涙が溢れる。
「あいつが来たの。ミツさんが話してた化け物。お願い、助けて」私は言った。
「とにかく落ち着いて。私は家にいるわ」ミツさんは、私を宥めるような声でそう言った。「隣の部屋を覗いてごらん」
私は、ミツさんがいつもお茶やお菓子を取りに行く部屋の襖を開けて、中に入った。でも、ミツさんはいなかった。
「いない。いないよ!」私は泣き叫んだ。
「そっちじゃないわ。反対側の部屋よ」ミツさんは言った。
すぐに居間に戻って、さっきの部屋と反対側にある襖を開ける。
すると、白いベッドの上に腰掛ける女性の後ろ姿が目に入った。
見慣れた白髪のショートカット。
薄紫のカーディガン。
ミツさんだ。
「ミツさん!」
私は急いでミツさんの傍に駆け寄り、その肩を手で掴んだ。
ミツさんがゆっくりと振り返る。
私は、ぎょっとした。
振り返ったその顔は、ミツさんではなかった。『それ』の顔と同じだったのだ。
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