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 土偶だ。  祠の中には、守り神が入っているご神体(しんたい)がある。それが土偶なのだ。  土偶を壊せば、目の前の『それ』は消えるかもしれない。  『それ』に考えを悟られないよう、ゆっくりと後ずさりしながら、祠へと近付く。  『それ』は首を傾げて、真っ黒な目で私を見ていた。  祠のすぐ傍まで後ずさりすると、後ろを振り返って、祠の中の土偶を手に取る。  そして、土偶を地面に思いきり叩きつけた。  叩きつけられた土偶は、真っ二つに割れた。  その瞬間、『それ』はふっと消えた。  急いで階段を駆け下りる。  階下には、村の大人たち、儀式に参加した子供たち、そして両親がいた。  両親は何も言わずに、私を抱きしめてくれた。  ああ、助かったんだ。  私は両親の腕の中で、泣きじゃくった。  私は大人たちに、山頂での出来事をすべて話した。  でも、その翌日に山頂を見に行った村人の話によると、祠の前に彼岸花と割れた土偶が落ちていたが、男の子の亡骸はなかったとのことだった。  「お前は、村の守り神を理由なく殺した」  大人たちから、そう咎められた。  そして、私と私の家族は、村を追放された。  その数年後。  風の噂で、その村が廃村になったことを知った。謎の疫病が流行り、多くの村人が死んだという。  村の守り神を殺したからなのか。  真実は分からない。
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