37.約束は歌を歌って指切り

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37.約束は歌を歌って指切り

 四角い塊は、魚が入ってた。白い魚なんて初めて見た。そう言うと、外側は青っぽい色をしているんだと教えてもらった。中と外で色が違うのを驚いていたら、セティが例え話をした。 「オレの肌は少し黒い。わかるか?」 「うん」 「手を切ると赤いのが出る、生き物は中と外の色が違うんだ」  言われて少し考える。叩かれた時に肌の色が変になるのは、きっと中の色が出てきちゃったからだ。理解したと説明したら、セティが泣きそうな顔をする。なんでだろう?  「もう痛い思いさせないからな」 「……? うん」  指切りという約束を教えてもらった。歌を歌って手を離すと約束できる。簡単なのは前に聞いたけど、今日のは歌が長かった。きっとすごく大切な約束に使うんだね。  魚に黄色いさくさくを付けた食べ物は、手で食べてもいい。隣の芋も同じだった。でも肉はパンに挟んで食べる。パンは手で食べていい。ひとつずつ覚えた。  セティが教えてくれるのは、世の中の人が知ってることみたい。僕は神殿にいたから知らなかったけど、周りの人を見て覚えるよりセティの声で聞きたかった。ひとつ覚えると、セティが褒めてくれる。頭を撫でてくれるのが嬉しかった。 「美味しいか?」 「おいしい」  コップに入った黄色い液体をもらう。なんだろうこれ、くんと匂えば果物みたいだった。柑橘だっけ? 酸っぱい甘い匂いに中を覗き込む。濁っていたが、セティが口をつけて「大丈夫」と教えてくれたので飲んだ。 「う……っ、果物の味!」 「そうだろ。果物をぎゅっと絞ったら、中身がこれだ。ジュースっていう。たくさん買って瓶で持っていこうな」  旅に持っていくと言われて、頬が緩んだ。なくなるのが勿体無くて、ゆっくり口の中に入れる。薄くじわっと味が広がって、それを喉の奥へ運ぶまで舌で混ぜた。美味しい。こんなの初めて飲んだ。 「イシスはもっとたくさん食べて、太って大きくならないとな」  セティは時々分からないことを言う。僕が太ったら神様に嫌われるって聞いた。大きくなったら捨てられるって言われた。でも神様なのにセティは僕を大きく太らせたいみたい。 「あんな奴らの言葉を聞く必要はない。オレの言葉だけ信じろ。わかったか?」 「うん。約束」  また長い歌を歌って約束した。セティの指が離れるのが少し寂しいけど、ご飯をお腹が苦しくなるまで食べた。前はいつもお腹空いてたけど、いっぱいになり過ぎても苦しいんだね。不思議だな。  屋台についた灯りが眩しく感じて、上を見ると夜だった。黒っぽい空にキラキラしている星、あれは絵本で見たよ。僕が知ってる形と少し違うし、大きさが小さいけど……絵本より数がたくさんで眩しい。 「ふーん、探す気はあるんだな」  ぽつりとセティが何か呟いた。でもすぐに何でもないと笑う。セティがそう言うならいいよ。ジュースの最後を飲んだところで、新しいジュースを入れてくれた。 「今日はこれでおしまい。冷たいものをいっぱい飲むと腹が痛くなる」 「痛くなるのはやだ」 「ここまでは平気だ」  セティの言葉を信じて、ジュースに口をつける。今度は違う味がする。すっきりしてて少し酸っぱいかな。でも甘い。色も白っぽかった。 「宿に帰って寝るぞ」  帰りは人が多いからと抱っこだった。僕はセティの首に片手を回して、ジュースの残りを飲む。後ろをずっとついてくる人、何だろう?
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