129.白くて長細い動物がいた

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129.白くて長細い動物がいた

 順番が来て、セティが先にプレートを見せる。僕も真似して金属のプレートを持ち上げた。確認したらしく、すぐに通っていいと言われる。今までは飴を舐めて黙って通ったけど、今日は手を振って挨拶した。お爺ちゃんっぽい兵隊さんが手を振り返してくれる。  靴の音をさせながら歩いていくと、セティは宿を選んで中に入った。金を2つと銀が2つ。お母さんのところにあった金貨と同じ色だけど、描いてある絵が違ってた。部屋に入って、セティは大きな宝箱を取り出す。これ、お父さんが持たせてくれたやつだね。 「うわっ、また奮発して寄越したもんだ」  苦笑いするセティの横から、中を覗き込んだ。袋から顔を出したトムが、部屋の中を調べて歩いている。匂って顔を顰め、ベッドの下で唸った。僕が宝箱の中身を出して並べる手を止めて、床に転がってトムの様子を確認する。お母さんだもん、当然だよね。  唸るトムの先に、何か小さい物がいた。 「セティ、何かいる」 「ん、どれどれ」  ネズミだろ。呟きながら覗いたセティが目元を押さえて起き上がる。ぶつぶつと口の中で文句を言ったかと思うと、ベッドの下の動物を魔法で引っ張り出した。 「ぴぎゃっ、何するのさ」  白くて細長い、見たことない動物だった。顔はネズミみたいなのに、体は細長くて大きい。子猫のトムくらいあるね。まだ怒ってるトムを籠にしまう。トムが噛まれると困るもん。あの喋る動物、何だろう? 「うるさいっ! なんで付いてきてるんだ」 「いいじゃないか。僕だって仲間に入れてよ」 「だめだ」  ぽいっとセティが窓の外に捨てた。びっくりして、僕は窓枠に手を掛けて外を覗く。ここの部屋は2階なのに、ケガしてないかな。でも外には何もいなかった。首を傾げて顔を上げたら、目の前にいる。浮かんでるの? 動物の下に手を入れたら、当たり前のように手の上に降りた。 「軽い」  トムと同じくらい? もっと軽い? 不思議、まるで羽毛みたい。振り返った僕の前で、セティが頭を抱えていた。どうしよう、僕の行動のせい? 白い動物を床に置いて、慌ててセティに抱き着いた。 「痛い? ごめんね、僕がいけないの」  温めたら治る? それともキスする? 泣きそうな僕に、セティが「イシスは悪くないよ」って言ってくれた。勝手にベッドに飛び乗って、僕達の間に割り込もうとする白い動物をセティが摘まむ。じたばたと短い足が動いた。この動物、手足がとても短い。胴体は細長いから余計に短く見える。  小さい耳を動かして、ヒゲを揺らす動物は赤い目をしていた。違う、よく見ると紫色みたい。この色、ガイアと同じだ。 「ガイアの色だ」  指さして口にした僕に、びくっと震えた白い動物が振り返る。まだセティの手に首を掴まれたままの動物は、僕をじっと見た後「バレちゃった」と呟いた。  え? 本当にガイアなの? 「ガイア?」 「うん」  白い動物が頷く。腹を抱えて笑うセティが、僕に動物を渡してくれた。ふわふわの毛皮に包まれた長細い獣は、ぱちりと大きな目を瞬いて、へらりと舌を出して笑う。 「捨てても帰れるから、外へ捨てよう」  そう主張するセティに「可哀想」と返したら、ものすごく反省した様子で「飼ってもいい」と言ってくれた。今日からガイアも一緒だね。ところで、人の形した神様の器は置いてきたのかな?
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