131.本屋さんは静かに

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131.本屋さんは静かに

 手を繋いで中に入ると、大人の人がいっぱいいた。みんな黙って本を見ている。ここは騒いだりしたらいけない場所だった。まだ赤ちゃんのトムを置いてきて正解みたい。  新しい絵本は大きな本屋さんの方がたくさんあると教えてもらい、棚の前に立つ。絵本のところは人が少なかった。しーっと唇に指を当てて、2人でこっそり笑いあう。それから絵本を手に取った。見たことがないお話の本に釘付けになる。  知らない神様のお話や、お姫様が冒険するお話もあった。セティに見せると、にこっと笑って頷く。それが買う本の合図だった。気づくとたくさん積まれている。こんなに買うの? 首を傾げて聞くと頷く。あれ? 僕が声を出してないのに話が出来てるみたい。便利だからいいか。  たくさんの本を選んだあと、セティがお金を出して支払う。たくさんの本は宿に届けてもらえるから、僕達は手を繋いで帰ることにした。途中でご飯を買って帰るんだ。屋台のお店が並ぶ通りを歩いて、いい匂いがするお店に寄った。 「おや、可愛い子だ。サービスしようか」  お肉を多めに入れてくれた。お礼を言って僕が受け取り、大事に袋を持つ。ばいばいと手を振って、今度はお魚を焼いてるお店で買った。隣でお野菜も買って……それからガイアが言ってた果物も選ぶ。たくさん買ったけど、セティは片手で持っていた。 「僕、こっちの手で持つよ」  両手で分けて持てばいいのに。そう思ってお手伝いを申し出ると、セティがわざわざしゃがんで目線を合わせた。どうしたの? 「イシスと手を繋ぐから、この手は空けておく。イシスもこっちは物を持ったらダメだ」 「うん」  手を繋ぐ手は荷物を持たない。だから片手が重くても我慢なんだって。本当は収納のお部屋に入れればいいけど、知らない人にバレてセティを取られたら困る。手を繋いで歩く僕達は、宿に戻った。荷物を置かないと動けないし、トムもお腹空いてる頃だよね。  鍵で部屋を開けると……ゲリュオンがいた。ガイアが捕まって膝の上にいる。ぐったりしてるから、追いかけっこして遊んだのかも。運んだお肉を机に置いて、セティが持ってる果物を受け取って隣に並べた。その間に魚や野菜を包んだ袋を置いたセティが近づき、不思議そうに尋ねる。 「なんだ、捕まったのか」 「……僕を追い回して、隅っこに追い詰めた。卑怯だ」 「こんなところにガイアが落ちてれば、捕まえるだろ」 「うっ、食われるぅ。助けて、イシス」  テン姿のガイアが手を伸ばす。慌てて僕はゲリュオンの膝にいるガイアに覆いかぶさった。 「ん?」 「ゲリュオン、ガイアを食べちゃうの?」 「「!?」」  驚いた顔でお互いを見たゲリュオンとセティが笑い出し、ガイアが申し訳なさそうに呟いた。 「ごめん、本気にされちゃった」  僕、何か間違えた? よく分からないけど、ガイアが食べられなくて良かった。抱っこして、ぐしゃぐしゃになった毛皮を丁寧に撫でる。トムはどこ? 見回したら、ベッドの上で丸くなってた。寝てるのかな。
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