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132.見たら怖くなるんだ
お昼を食べてから、ゲリュオンにお留守番を頼んだ。ガイアは嫌がったけど連れていけないんだよ。襟巻にする毛皮を狙う人がいると教えてもらったから。危ないからねって頭を撫でたら、我慢してくれた。
僕とセティは手を繋いで、今度は粘土を買いに行くんだ。夕飯はゲリュオンがいるし、お外で食べるから買わないの。靴音をさせながら玩具があるお店に行った。入り口が大きくてガラスで透明なの。中に置いている物がよく見えるよ。
「粘土……これでいいか」
「ええ、口に入っても安心です」
お店の人が勧める粘土を買って、それからお人形も見た。たくさん並んでて、フォンみたいなふかふかの動物もいっぱいある。小さくて手のひらに乗る子猫のぬいぐるみを買ってもらった。トムみたいな猫なのに、色はガイアの白なの。嬉しいから抱っこして、持っていくことにした。
外に出て「フォンはもういいのか?」と聞かれる。意味を少し考えたけど、もしかして新しいのがあればフォンは要らないかってこと? 僕は大きく首を横に振った。
「違うよ、フォンは僕の最初のお友達。この子はトムやガイアのお友達になるの」
眠るときに抱っこするのはフォン。間にガイアとトムを入れて、後ろからセティにぎゅっとしてもらうんだから。この子も隙間に入れてあげるの。新しいお友達だよ。お友達は増えるって絵本にも書いてあったし。僕はフェルも亀さんや燃える鳥さんもお友達だもん。
「そうか。フォンが喜ぶぞ」
くしゃっと前髪を揺らして撫でたセティの手が気持ちいい。次は果物の果汁や調味料を売ってるお店に寄った。お肉はフェルが捕まえてくれるし、お魚は海の近くでたくさん買った。あとはパン屋さんだけ。いい匂いがするお店の前で、人が怒鳴っていた。
「ふざけるな! 文句を付けに来ただけだろうが!」
「それが客に対する態度か」
「お前なんか、客じゃない」
パンの絵が描かれたエプロンのおじさんが、目つきの悪い人を怒ってる。相手も興奮してて、人を傷つけるナイフを取り出した。ギラギラした銀の棒は、食事の時のナイフに似てた。あれは人を刺したり切ったりできる痛いやつだ。
繋いだセティの手をぎゅっと強く握る。怖い。僕を殴ろうとしてるんじゃないけど、思いだしてしまった。怒鳴りながら大きい人間が僕を叩いた、殴って蹴った。痛くて寝られなくて、次の日も痛かった。泣いたらまた叩かれて、煩いと怒鳴られる。
ぶるりと肩を震わせた僕を、セティが「よっ」と声をかけて抱き上げた。僕の目に騒ぎが見えない向きに抱っこしてから、声を掛けてくれる。
「もうイシスを叩く奴はいない。大丈夫だ」
泣きそうになりながら「うん」と頷いた。ケンカの声はなかなか終わらず、パンは買えそうにない。溜め息をついたセティが歩き出した。パン屋さんの前を通り過ぎて、そのまま宿の方へ向かうみたい。
「パンは明日にしよう。オレはイシスの方が心配だ」
「あり、がとう。僕も強くなれるかな」
セティみたいに、怖がらないで。他の人を守ったり、優しくできる人になりたい。そう思って首に回した手に力を込めた。成長した僕は大きくなったのに、中身は何も変わってない。とても悔しくて、僕は鼻を啜って顔を埋めた。
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