133.僕が言うから引き分け

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133.僕が言うから引き分け

 僕がべそべそ泣きながら帰ったから、ゲリュオンとガイアに心配させちゃった。セティは悪くないから責めないで! そう言ったら、ゲリュオンは肩を竦めてパンを買いに出た。ガイアはトムと一緒にお昼寝の続きを始める。 「今日買ってきた絵本を読むか? それとも粘土を先にやるか」  目の前に並べられた両方を見比べて、僕は粘土を突いてみる。ぐにゃりと指が入っていく感触が不思議で、そちらを手に取った。 「こっち」 「よし、何を作るかな」  薄い茶色の粘土を捏ねると柔らかくなって、千切ったりくっつけたりした。その間に隣でセティが何かを作っているみたい。耳があって、お座りしてる? えっと、フォンかな……たぶん。 「ティフォンって本当に作るのは向いてないよね」  起きたガイアが、ベッドから飛び降りた。近くに来て、セティの手の中にある狼みたいな形を撫でる。短い手で何度か弄ると、フォンのお人形そっくりになった。 「……やっぱ、作るのはお前の方が得意だな」 「どう違うの?」  セティだって上手に作ってた。僕は長くした棒をくねくねと巻いてたけど、セティが作ったのがフォンだって僕はわかったよ。ガイアが作ったのもよく似てるけど、僕はセティが作ったフォンも好きだもん。出来上がった粘土のフォンは、優しく触らないと壊れそう。 「イシスが言うなら、引き分けだな」  なぜか嬉しそうなセティ。嫌そうな顔をしたガイアだけど、すぐに笑い出した。それから前に話してた器のことを教えてくれる。 「ガイアの入ってるテンは、神だった時と同じ器を使ってる。こうやって粘土みたいに形を変えたんだ」  買った時は四角い箱みたいだった粘土が、フォンの形や僕が巻いた渦になる。これがガイアの体に起きたのはわかるけど、どうしてテンになっちゃったの? 神様のままでもいいのに。 「僕がいると目立ちますからね。セティの旅の邪魔をする気はないんですよ」  ガイアの説明に「ふーん」と首を傾げた。変なの、ガイアがガイアのままでも、別に邪魔にしたりしないのにね。優しいなとガイアがにこにこしていると、起きたトムが駆け寄ってきた。自分の体より高いところから飛び降りて、とことこ近づく。床に座った僕の膝に乗って、大きな欠伸をした。  触ろうとして手を近づけると、鼻を寄せて臭いを嗅いでる。僕も反対の手の臭いを確かめたら、なんか変な臭いだった。これはトムに触るとついちゃうね。セティが用意してくれた濡れた布でよく拭いてから、トムを抱っこした。 「お? 機嫌は直ったか」  たくさんのパンを買ったゲリュオンが、またドアじゃないところから入ってきた。転移っていう魔法を知ったから、もう驚かないけど。床にある粘土を眺めて、ぬいぐるみのフォンだと気づいたみたい。それから僕が作った渦巻きを不思議そうに見て、ぽんと手を叩いた。 「どっかで見た形だと思ったら、これに似てるじゃねえか」  パンの入った袋をごそごそ探って、ひとつだけ取り出した。見てびっくり、僕の作った渦巻きそっくりの形のパンだった。細く捻じったパンが平らに渦を作ってる。 「甘いっていうから驚かしてやろうと買ったのに、知ってるとはなぁ」 「ううん。僕知らなかった。ありがとう、ゲリュオン」  受け取ったパンを齧ると、表面がべたべたしてて甘かった。両手が汚れちゃったけど、とても美味しい。欲しがるトムに分けたら、ガイアも「ちょうだい」って口を開けた。一緒に食べ終えた僕達は、そのまま全員お風呂に入ることになったの。パンにかかった蜂蜜で、汚れちゃったんだ。
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