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135.あーんも半分こもセティだけ?
ゲリュオンに抱っこされたガイアと、セティにしがみついた僕。目を引くみたいで、あちこちのお店の人から声を掛けられた。そのたびに覗き込んで買ったら、すごい大量になっていた。でもゲリュオンがたくさん食べられるから平気みたい。
「ほら、紫のジュースだ」
僕とセティの瞳の色だから、紫が一番好き。黒いジュースはないからね。紫のジュースに口を付けて、半分くらい飲んだ。
「それ、美味しいの?」
「うん!」
尋ねたガイアにコップを渡そうとしたら、セティが止めた。首を傾げた僕の前に別のコップを置いて差し出す。ちゃんと紫のジュースが入ってた。そっか、僕が飲んだ残りをあげるのはよくないね。頷いて自分のコップを引き戻した。でも残ってたジュースをセティが飲んじゃった。
「どうして」
「うん?」
「僕の残り、誰かにあげちゃダメなのに……どうしてセティが飲むの?」
不思議に思った僕に、ゲリュオンの大爆笑が聞こえた。びっくりして振り返ると、噎せたガイアの背を叩きながらまだ笑ってる。何か楽しいことがあったのかな。セティは「うーん」と唸った後で、膝の上の僕をぎゅっと抱きしめた。
「同じコップで飲むのは、特別な証拠だ。オレの特別はイシスだけだから、イシスもそうして欲しい。誰かにキスさせたり、食べ物を半分こは禁止だ」
禁止はしちゃいけないこと。これはセティと僕の約束なのかな。ちゃんと守れるよ。頷いた僕をセティが笑顔で撫でてくれた。頬ずりして、額と頬にキスをもらう。お外でゲリュオンも他の人もいるから、唇は、夜の仲良しのお呪いまで我慢だね。
げほっ……また咳き込んだガイアがセティを睨む。でもセティは目を逸らしちゃった。袋から顔を覗かせたトムが、ふんふんと鼻を動かす。匂いがするよね、赤ちゃん猫だからお腹空いたかな。焼いたお魚の端を掴んで千切った。トムの前に置くと、首を傾げてみている。
初めて見る食べ物は怖いのかな。僕が同じ魚を食べて見せれば、安全だってわかる? 魚の尻尾の近くをまた指で千切って、僕はトムの前でぱくりと食べた。油で汚れた指先を舐めた僕をじっと見つめたトムが、温かいお魚の身を齧った。目の前に置いた分をぺろりと食べてしまう。
「いい子だね、トム」
ハンカチを出して手を拭いた僕が褒めて顔を上げると、なぜかゲリュオンがそっぽを向いていた。ガイアは真っ赤だし、セティも赤い。唇を舐めると魚の味がした。焼いたお魚は油つけなくても、中から油が出て来るんだよ。その油が甘いの。外にお塩が振ってあって、混じると美味しい。
「セティも食べる?」
もしかしてお腹が空いた? 真っ赤な顔のセティに尋ねて、お魚に手を伸ばした。ゲリュオンがそっぽ向いたまま、お皿を押してくれる。
「ありがとう」
取りやすくなったお魚を指でバラバラにして、摘まんで振り返った。
「あーんして」
口を開けたセティに食べさせて待つと「美味しい」って言ってくれる。嬉しいけど、向かいのガイアが大きな口を開けていた。なんだ、ガイアも欲しいんだね。残ったお魚を摘まんで、身を乗り出す。届くぎりぎりで、魚をガイアの口に入れた。
「美味しい?」
笑って尋ねたらガイアが大急ぎで口を閉じて頷き、後ろでセティが「そういうのは、オレ以外とはダメだ」って――そうなの? 次からは気を付けるね。
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