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38.仲良くなるお呪い
宿の部屋の窓は、ベッドと近かった。座ると見えないけど、立てば外がよく見える。ベッドの上から外を見ていたら、セティが椅子を用意してくれた。窓のそばに置いて外を覗く。さっきの人、まだいた。
「ありがとう」
「どういたしまして」
きょとんとすると、お礼を言われたら返す言葉らしい。教えてもらったことを覚えながら、椅子に座って宿の前の道を眺める。色々な人が歩いていくのに、ひとつだけ動かなかった。人間だから1人って数えないと。
黒っぽい布を頭に被って、壁に寄りかかってる。でもこっちを見てるし、あれが動いてた時は僕かセティを追いかけてきた。僕は知らないから、セティを知ってるのかも。
「セティ」
「どうした」
「あの人知ってる?」
指差しながら振り向くと、黒い人はいなくなっていた。ぱちくり瞬きして、突き出した指と男が立っていた場所を交互に目で追う。
「どんな奴か覚えてる?」
「黒い服で、こんなの被ってた」
引っ張ったシーツで三角の形を作って被る。くすくす笑いながらセティが頭を撫でた。
「頭の中に浮かべてくれたら伝わるぞ」
「うーんと、こんなの」
頭に思い浮かべたのは、さっきみた人の姿だった。こんな風に秘密のお話ができるの、なんだか嬉しい。僕が特別みたいだ。
「そうだ、イシスだけ特別だぞ」
にっこり笑った。そうしたらセティも笑って抱っこしてくれる。額と首にキスをくれて、嬉しいから僕からもキスをした。頬にしようとしたのに、セティが動くから唇が重なる。
甘い……気持ちいい。このまま溶けちゃえばいいのに。
「風呂に入って寝ようか」
キスを終わりにされたのが不満で唇を尖らせた。もっとキスしたいし、セティとくっついていたい。
「……寝る前に仲良くなるお呪いするか?」
「おまじない! うん、する!!」
大急ぎでお風呂へ向かった。扉を開けてお湯が出る管の前で座る。セティがお湯を出してる間に、泡を作って待っていた。僕は何も知らないけど、覚えたことは出来る。たくさんの初めてを教えてくれるセティのために、いろいろ手伝えるようになりたかった。
昔きてたお爺ちゃんも、今の僕を見たらびっくりするかも。作った泡をセティの背中にぺたぺた乗せて、手のひらで広げる。前の街で入った大きいお風呂では布で擦ったけど、肌が痛くなったり赤くなるからダメなんだって。
「次はイシスの番だぞ」
手招きするセティの膝に座る。たくさんの泡をつけてセティの手が洗ってくれた。気持ちいいし、なんかむずむずする。不思議な感じに首をかしげる間に洗い終わったらしく、上からお湯で流される。これも気持ちよかった。
「入る?」
お湯の溜まった湯船を指さし、セティが頷くのを待って僕も入った。お湯がざばぁとすごい音で外へ流れていく。もったいないな。そう思いながら顔を拭いてセティの上に座った。股の間にあるのは触らない。セティを困らせるから我慢だ。
「……はぁ、オレも他の連中のこと言えないか」
変な笑い方をしたセティだけど、僕はよくわからないから抱き着いた。辛かったりするなら、僕を叩いていいのに。よくわからないけど、白い服の人間は僕が痛くて泣くとすっきりするって言ってた。セティなら我慢できる。痛い思いさせたくないって言ったから気にしてるのかな。
「自分が傷ついてもいいなんて、二度と思っちゃダメだぞ」
怖い顔で約束させられた。
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