【四月】

3/8
前へ
/35ページ
次へ
    *  *  *  入学式を終えて出て来た晶は、止めた自転車を前に石段の一番下段の端に座っていた石森を見つけ、彼に向かって駆け降りた。 「い、石森、さん?」 「ああ、間に合った?」  笑いながらの石森の言葉に、晶は頭を下げる。 「はい、おかげさまで。本当にありがとうございました。式の最中、この中に始まってから入って来ること想像したら冷や汗が出ましたもん」 「ならよかった。まぁ、大学の入学式なんて高校までと違って来ない奴もいるしな。遅れたり出られなかったりしてもそれで躓くってことはないんだけど、どうせなら清々しい気分で大学生活スタートして欲しかったからね。遅れたけど俺は薬学研究科、えっと薬学部の院生の石森凱斗(かいと)だよ」 「あ、自己紹介もしなくてすみません! お、僕も薬学部の三好晶です」 「そうか、同じか。この時間は確か薬と理と、あとどこだったかな。人数で言えば薬が一番少ないから、そういう意味では凄い偶然だね。それと、別に言葉遣いも気にしなくていいよ。俺は先生でもないんだからさ」 「はい。ありがとうございます」  ふと気づくと、ホールの両脇の陰から続々と現れたサークル勧誘らしい学生集団が、式を終えて出てくる新入生にビラを配りながら声を掛け始めていた。 (そういえば、来た時もなんか横の方に固まってる人たちが居た、ような。さっきはそれどころじゃないから何も考えられなかったけど、きっと始まる前に勧誘してて、また終わるの待ってたんだろうな。そりゃ新入生がみんなこっち来てるんだから、正門あたりに誰も居なかった筈だよ……) 「でも、ここのキャンパスってホントに広いですよね。俺も、知識としては広いって知ってましたけど、ここまでとは思いませんでした。正門からこのホールまでもかなり遠かったのに、まだこの向こうもずーっと大学の敷地ですよね?」  勧誘の学生のことは思考から締め出して、晶は石森に話し掛ける。 「うん、もちろん。この先は体育会やスポーツサークルで使うグラウンドとか専用競技場が山ほどあるんだよ」 「え、それじゃ体育とかこの先へ行くんですか?」 「いや、体育の実技で使うのはもうちょっと手前にあったスポーツ棟の屋内運動場だから。各学部棟から講義の合間に移動すること考えれば、スポーツ棟の場所あたりがギリギリじゃないかな。空き時間があればまた別だけど」 「そうなんですね。全部見て歩こうと思ったら大変でしょうね」 「このキャンパス、俺もう七年目だけど端から端までなんて行ってみたこともないな。そんなことしようとも思わないし。体育会系のトレーニングの一環ならやってるかも、……それでもキツそうだな」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

128人が本棚に入れています
本棚に追加