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【四月】
(何でこんなに閑散としてんの……? 今日、入学式だよね?)
三好晶は受験生として過ごした苦しい日々を乗り越えて、見事合格を勝ち取った本命大学に通うべく実家を離れて大学近くの古い低層マンションの1Kで一人暮らしを始めた。指折り数えて楽しみにしていた今日の入学式まで、引っ越しの荷物整理の合間をみながら何度か校門まで用もなく歩いて来てはいたのだ。何故だか中に入るのは躊躇われて、いつもそこで引き返してしまっていたのだけれど。
(別に部外者立ち入り禁止ってわけじゃないし、そうじゃなくても入学決まってたんだから、一回でも入ってみればよかったんだ)
当然ながら朝も親が起こしてくれる筈もないが、緊張もあって目覚ましとして使っているスマートフォンのアラームが鳴る前に目が覚めてしまい、十分余裕をもって起きられたのに。前夜までにきちんと用意していた持ち物も、家を出る直前に不安になってバッグから全部引っ張り出して点検している間にどんどん時間は過ぎて行った。
それでも、なんだかんだ言って徒歩通学できる程度に近いのだし、少し急げばいいやくらいで心配もしていなかったのだが、正門を潜ってすぐの案内板に書かれた会場を確かめて初めて、晶は入学式の案内に書かれた『くれぐれも時間に余裕を持って来るように』との注意書きの本当の意味を悟った。
地方都市の郊外に位置する大規模キャンパス。
晶も当然ながら入学試験で訪れているし、まったく未知の環境ではないのだからと甘く考えていたのだが、思い返してみれば試験日はホテルを出て電車に乗り駅からバスで直接構内のバスターミナルに乗り入れたのだった。帰りも同じルートを辿ったため、キャンパス内を散策などしたことがない。ちなみにこのキャンパス内には、所謂スクールバスではなく一般の路線バスの複数のバス停があるのだ。
(駅から一キロ以上あるのは知ってるし、電車通学の学生向けの注意だと思ってたけど。それだけじゃなくて、キャンパス内が広くて正門から入学式の会場まで遠いからっていうのもあったんだ)
地元の高校生ならまだしも、晶の実家は新幹線を利用する距離だ。入試のときも受験生パックで少し離れた県庁所在地のホテルに泊まって、試験が終わるとその日のうちに家に帰った。
その後、合格し入学することになって親と共に部屋探しには来たけれど、初めての引っ越しと一人暮らしでバタバタしていてそんな当たり前のことさえ思い及ばなかった。第一、部屋には今もまだ空き切らないダンボールが並んでいる有様なのだ。
(早く、行かなきゃ。もうすぐ、開始時間で)
晶は、とりあえずキャンパスの奥に向かって足を踏み出そうとした。
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