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叶わなかった願い
ふわり、と暖かい手が静かに自分を抱き上げた。
神さまの手は、こんなにもやさしく、あたたかい。――そう思ったのだが、
「誰がこんなところに!」
更に暖かくて柔らかいものが体を包んだ。
神さま?
目を開けると、知らない青年が厳しい顔つきで自分を見ていた。
「良かった。もう大丈夫だからね」
少しも良くない。今まさに神さまに願いを叶えてもらうところだったのに――。
神さまは……?
神さまの姿はどこにもなかった。
このままでは、もう願いを叶えてもらえなくなってしまう。
とっさに目の前の青年に唸りを上げ、最後の力を振り絞って噛み付いた。
「うわっ!」
これできっと願いは叶う……。
もう、辛くて悲しい想いをするのは厭だった。
そして、心地よい暖かさのままに眠ってしまった。
目が醒めたのは知らない場所だった。
神さまの元に召されるということは、考えることすらできない死の眠りにつくことだと言われたのに、ここはどうやらそんな処ではないらしい。
「目が醒めたかい? ここは病院だよ」
さっき噛み付いてやった青年が言った。
さっき……。
もしかすると思っていたよりもずっと長く眠っていたのかも知れない。
段ボールの中で震えていたような寒さはどこにもなく、体がずいぶん軽くなっている。
「起き上がるのはまだ早いよ。もうすぐ点滴が終わるから、そうしたら家に帰ろう」
家に?
家ってどこの家?
お母さんや兄弟たちがいた家?
わたしを段ボールに入れて置き去りにした人がいた家?
「しばらくは病院に通うことになるけど、僕の家に来てくれると嬉しいなぁ」
わたしを拾ってくれるの?
ううん。そんなことを言っても、きっとすぐに怒ったり叩いたりするから。
自分が悪いのはわかっているけど、どうしたらいいのかわからないから。
でも、その人は嬉しそうにわたしを連れて帰って――。
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