はじまり

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はじまり

「わあ、カワイイ! いいんですか、もらっちゃって?」 「5匹も生まれて困っていたの。可愛がってあげてね」  そんな風に突然みんなと引き離された、あの日――。  他所に捨てられるの?  みんなと離れ離れになるの? 「さみしいよね。でも大丈夫。今日から私と一緒に暮らすんだから」  離れないでね、寂しいから。  一人にしないでね、不安だから。  今日からわたしの新しい家族。  とてもやさしくて、親切な人。 「ほんとカワイイ。パンとか食べる? クッキーは? 美味しいでしょ?」  うん、とっても。  でも、ちょっと食べすぎたかも……。 「え? もしかして、これってゲロ? 吐いたの? 私のカーディガンの上に?」  ごめんなさい、我慢できなくて。  とてもとても、辛かったの……。 「えーっ、ウソ! 冗談でしょ! こんなところでおしっこして! ――どうするのよ。お気に入りのラグなのに!」  ごめんなさい。でも、どこでしていいのかわからなくて……。 「クゥクゥ鳴かないでよ! ちょっとお風呂に入ってただけでしょ!」  ごめんなさい。誰かがいてくれないと心細くて……。  親兄弟と離れ離れになったのが、生後三か月の頃。  チワワ――と言いたいところだけど、ハイブリッド。早い話、飼い主のお友だちの家で飼われていた小型犬との間に生まれた雑種。顔と背中は黒、足としっぽの先、胸と鼻は白、ほっぺと足(黒と白のつなぎ目)は茶色の三色(トライカラー)。  わたしをもらってくれた里親は、わたしをとてもかわいがってくれて、毎日抱きしめてくれて、おいしいものを食べさせてくれた。  時々怒られたりしたけど、それはわたしがおしっこをしたり、吐いたりしたから。大事なものだと知らずに、そこで怒られるようなことをしてしまったから。  だから、悪いのは、わたし……。  おしっこを我慢すればよかったのに。  大事じゃないモノの上で吐けばよかったのに。  通販サイトの段ボール箱の中は暗くて、息苦しくて……。
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