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彼女の前原ゆらが、なぎちゃんと仲良くなりたい、と授業後によくおれを引っ張った。英語準備室、という、準備なんてものと縁がない、すずめが居るのには最もふさわしくない部屋におれも行った。
「なぎちゃん、英語上手ですね。どうして英語の先生になったんですか?」
ゆらはきらきらした瞳で問う。
「なりゆき」
すずめは適当に答える。
「教えてくださいよ。私、就職か進学で悩んでます」
ゆらは、ツアーコンダクターになりたい、と前に言っていた。だから、すずめに言ったことは嘘だ。彼女はこういったコミュニケーションのための小さな嘘をつく。
「困ったら、玉の輿に乗るのがオススメ」
すずめはまた適当に答える。
「え、結婚したら、進路って考えなくても良いんですか?」
ゆらがころころ笑うので、何となくおれはイラッとした。
「玉の輿って、いつの時代だよ」
すずめを見ると、くくく、と八重歯を出して笑った。
「……英語は話せた方がいいよ。進学するのにも、就職するのにも。前原さん、英検受けてみる?」
すずめはおれを見て、澄ました表情を作った。
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