落とし物

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外を歩いている時、物を拾って持ち帰ることがある。別に私は、落ちているものを何でもかんでも自分のものにするような、そんな意地汚い人間ではない。私が拾うのは、「私のもの」だけだ。 覚えている中で最初に拾った「私のもの」は、幼稚園に通っていた頃、母さんに買ってもらっていつも身につけていた小さな玩具の指輪だった。園の庭にあった小ぶりの鉄棒、その付け根の辺りに、それは落ちていた。 あれ、これ私のじゃないかと思ったけれど、でも私今指輪付けてるよな、と思って左手の人差し指を見ると、ちゃんと指輪はそこにはまっていた。じゃあ他の子のか、後で先生に渡そう、と思い、落ちていた方の指輪をむんずと掴んで右のポケットに入れた。 そのままその事を忘れて家に帰ってしまった後、母さんが私の服のポケットを確認した事で、指輪は洗濯機の回転から免れた。 これ○○ちゃんのじゃない?と言われ、ううん違うよ、と言おうとした時、少し変な感じがして左手を見ると、私の指輪はどこにもはまっていなかった。 とっさに、うん私の、と言って指輪を奪い取り、隣の部屋へとかけていった。 小学生になり、おそらく低学年だった頃にも似たようなことがあった。 学校の渡り廊下に、茶色い毛をした何かが落ちていた。その時は遅い時間だったのか私の近くに人はおらず、誰も気にしなかったのかな、と思いながらそれに近づいてみた。 それは私が大事にしていたクマのぬいぐるみだった。 私は不思議に思った。何でこんな所に?だってこの子は外に出すのが嫌で、ずっと私のベッドの上に置きっぱなしだったじゃないか。 私は考え、考えている内にだんだん怖くなり、そこから走って離れたのだった。 その3日後、私のクマのぬいぐるみはどこかに行ってしまった。 父さんや母さんに泣きつき、3人がかりで探したものの、どこにも見つからなかった。家の中にはあるはずなんだけどねえ、と母さんが首を傾げていた。 その後も、時々だがそういったものに出くわすことがあった。 お気に入りの髪留め、部活で使う楽器用のマウスピース、1番の友達と撮ったプリクラ。プリクラにはちゃんと自分の顔も写っていた。おかしいと思ったものの、誰かに言っても怖がられるだけだと思い、黙っていた。 落ちていたものは、その時々で拾ったり拾わなかったりした。そしてその体験からしばらくすると、元々自分が持っていたものは必ず何処かに消えてしまうのだった。 その事に気付いてからは、なるべくそういった落とし物を見つけると持ち帰るようにした。そして後に無くなってしまったものの代わりに、その拾ったものを自分のものにした。 「私のもの」は何処かに行ってしまう前、1度私の前に現れてくれるのだ。いつからかそう思うようになっていた。 ただ、それなら何故、少しの間「元々のもの」と「落とし物」が両方とも存在しているのだろうか?その理由は分からなかった。 今、私の部屋には私の首がある。 数日前に、帰り道で見つけた。空の鞄があったので隠して持って帰った。 「元々のもの」である私はいつまで存在出来るのだろうか?
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