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空が白み始める前に、俺の一日は始まる。
土手橋の下にブルーシートと段ボールで作った住居で目を覚まし、まだ暗い中を手探りで洗面用具を探した。
ブルーシートをめくると外は薄闇に沈み、離れた先から川のせせらぎが聞こえてくる。ぼんやりとした街灯の明かりを頼りに、俺は住居から体を出し、川縁へと足を向けた。
川から掬った水で顔を洗い、使い古した歯ブラシで歯を磨く。ついでに喉を潤してから住居へと戻る。
数少ない服の中から洗濯したものを選んで着替えると、簡素な食事を取った。すでに期限が切れている鮭おにぎり一つだけだ。
食事を終えて再び外に出ると、住居に立てかけてある錆びた自転車を起こした。
「よお、タク。今日もはえーなぁ」
背後から声をかけられ、そちらに目を向ける。
黒い野球帽をかぶった小柄の男の姿が、ぼんやりと闇に浮かぶ。
「なんだ。ダンさんか」
ダンさんは俺の隣に住居を構える仲間だ。俺がこの土手橋の下で生活を始める以前からいた住人でもある。
「これから拾いに行くのか?」
「そうだよ。ダンさんは?」
「俺もそろそろ行くところだ」
そう言ってダンさんは、大きくため息を吐いた。
「どうせ今日も、あまり取れないだろうけどな」
ダンさんの意見に同意し、俺は頷いた。
「まぁー、おまえはまだ、わけぇからなぁ。いくらでも立て直しはきく。早くこんな所から出た方が良い」
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