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幽霊、妖怪。そう呼ばれる存在を僕は信じていない。
でも″怪異″。そう呼ばれる存在は信じている。いやこの場合──知ってしまったに近いのかもしれない。
これらの存在に僕なりの定義はあるものの、正直僕も見分けがつく訳ではない。だから出逢って初めて、″怪異″だったのかと知る。
──今回もそうだった。
その扉は、気づけばそこにあった。当たり前のように溶け込んで、そこに存在する扉を最初は僕も違和感なく受け入れていた。
でも次第に、異質な物だと感じ、次第に僕が抱く違和感は大きな物に変わっていたのだ。
「ねえ知ってる? 記憶を食べちゃうオバケがいるって話」
パフェのてっぺんを陣取るソフトクリームにスプーンを差し込みながら、嬉々として僕の彼女は口火を切った。
「また怪談?」
僕がそう訊ねると、彼女は嬉しそうに「へへ」と笑う。
横髪を耳にかけて、喫茶店の辺りを一瞥した後、
「他になにがあるの?」
そう言葉を返した。
「今、学校中の話題だよ? 物忘れが増えたのも、大事なことが思い出せないのも。全部、そのオバケのせいなんだって、みんな話してる」
「へえ」
興味がない。それを態度全てで語るように、僕は適当な相槌を返し、アイスティーのストローをくるくると回す。
グラスの中で、冷たく響ある音を氷が奏でた。
「キミは怪談とか興味ないよね? 周りはすっごい盛り上がるのに。つまんなあい」
そう話しつつも、どこか楽しげに彼女は笑ってパフェを食べている。
冷たいソフトクリームを口に頬張り、幸せそうな顔をして、再びソフトクリームにへとスプーンを伸ばす。
「僕はあまり、そういうモノと関わりたくないだけだよ。一度関わりを持てば、嫌でも出逢ってしまうからね」
「ふうん?」
もう怪談の話はどうでも良いのか、それこそ適当な相槌だけを彼女は返しパフェ完食にへと精を出し始める。
そんな彼女を僕は眺めるように見つめて、あぁ可愛いなあなんて。ひとり勝手に惚気けたのは彼女には内緒だ。
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