豆腐小僧のおつかい

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「どうしよう、どうしよう」  豆腐小僧がくるくるとたとた、不安そうに回っています。持っているお盆に乗った豆腐も、豆腐小僧と一緒に、不安そうにぷるぷる揺れます。  実は、豆腐小僧の大好きなお父さん、見越入道が病気になってしまったのです。いつも大きくて強いお父さんが、辛そうにゼイゼイげほげほ、それを見た豆腐小僧はお目々がうるうる、豆腐はぷるぷる。  お父さんの看病をしているお母さんのろくろ首が、ながあい首を伸ばして空の月を見上げて言いました。 「ちょうど今日は満月ね、お薬屋さんがやってるわ」  妖怪のお父さんにも効くお薬を売っている、月のうさぎのお薬屋さんは、満月にしか開いていないのです。 「でも困ったわ。お父さんの看病もしなくてはいけないし、看病しているとお買い物に行けないわね」  お母さんは、長い首をくるくるとひねります。それを聞いた豆腐小僧が、ビシッと手を上げて言いました。 「お母さん、おいらが薬屋さんに行って来る」 「え、豆腐小僧一人で? 本当に大丈夫?」  心配そうに顔を覗き込んでくるお母さんに、豆腐小僧は胸を叩いて答えます。 「大丈夫、任せて!」  お父さんの一大事、豆腐小僧はちょっと恐い気持ちをぎゅっと押し込んで、凛々しいお目々で言います。お盆の豆腐も、心無しか勇ましく揺れました。  豆腐小僧の初めてのおつかいです。行先は野原にある、月のうさぎの薬屋さん。  野原には何回も行ったことがあるので大丈夫だろうと、豆腐小僧は自分を勇気づけて進んで行きますが、一人で行くのは初めてなのです、どうやら道を間違えたらしく、気付いたら海に出ていました。  豆腐小僧は、どうしようどうしようと、周りをキョロキョロ見回します。お盆の豆腐も、不安そうにぷるんぷるん震えます。  豆腐小僧が困っていると、海の沖の方から何かが来ました。アマビエです。 「かわいい坊や、どうしたの?」 「おいら、うさぎの薬屋さんにお使いに行くんだけど、迷っちゃったの。どうしよう、お父さんの薬が買えない……」  豆腐小僧の目に、うるうる涙があふれて来ました。 「あらあら、それは大変。  じゃあ、わたしが案内してあげるわ。だから、泣かないで」  優しく言うアマビエに、豆腐小僧は涙を拭くと、頷きます。お盆の豆腐も、ぷるんと震えました。  豆腐小僧がアマビエのヒレを握ると、薬屋さんへの道を、アマビエと一緒に歩きます。一人じゃなくなって、豆腐小僧はだんだん元気が出てきました。 アマビエの案内で、無事に野原に着きました。満月の下に、お薬屋さんが見えてきました。 「着いたっ!」  豆腐小僧は嬉しそうです。お盆の豆腐も元気にぷるぷる跳ねました。 「こんばんは!」  勢いよく店に入った豆腐小僧を、うさぎが迎えます。 「こんばんは。どんなお薬をお求めですか?」 「おいらのお父さんが、ゼイゼイげほげほって病気になっちゃったの。だから治すお薬をください」 「まあまあ、それは大変です。すぐお薬を作るので、少し待っていて欲しいのです」  そういうと、うさぎは薬を作り始めました。  しばらくして戻って来ると、お薬を渡してくれました。 「お待たせしました。さあ、このお薬を飲んでゆっくり休めば、きっと元気になりますよ」  薬を受け取った豆腐小僧は、うさぎにお辞儀をして、「ありがとうございます」とお礼を言いました。お盆の豆腐も一緒にぺこりとお辞儀します。そして、案内してくれたアマビエにもぺこり。 「ここまで連れて来てくれて、ありがとうございました」  そんな豆腐小僧にアマビエが言います。 「どういたしまして。  ねえ、わたしもお家について行って、お父さんのお見舞いをしてもいいかしら?」  豆腐小僧は嬉しくなりました。 「うん、きっとお父さんも喜ぶよ!」  豆腐小僧とアマビエは、うさぎにあいさつをして、アマビエが薬を、豆腐小僧は豆腐の乗ったお盆を持って、ヒレと手を繋いで、お家に帰って行きます。  うさぎと満月が、その背中を見送りました。
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