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想像して、トリスは目眩がしてきた。いくらグレンに対して情が移ってきたとはいえ、やんちゃなグレンを街中で散歩させる自信はない。
「……簡単に言うな、恐ろしいことを」
『お前だって、もうグレンを猛獣だなんて思ってねえだろ? ――俺はな、グレンがお前と暮らすようになって、充分人間らしくなったと思っている。だから言っているんだ』
「しかし……」
口ごもるトリスに、シラクサは明るく言う。
『なんなら、俺が連れて行ってやってもいいんだが、グレンは俺より、お前と散歩するほうが嬉しいだろうからな。……まあ、ゆっくり検討してくれ』
通信が切れた。
トリスは小さく息を吐く。
今回の事件でトリスは、自分自身が成長した気になっていた。しかしシラクサは、さらに突き抜けた考えを持っていたらしい。
「……ゆっくり検討しろ、か」
なら、すぐに結論を出す必要はないだろう。グレンもしばらくは、おとなしくしているはずだ。
トリスは階段を上がり、家に入る。
「ただいま」
リビングに向かって声を掛けると、グレンが慌てて窓を閉めようとしていた。
どうやら、また窓を開けていたらしい。
――このねこは、ちっともおとなしくならないな。
そう思ったとき、窓から入った風が、トリスの顔を撫でた。
熱い、乾いた空気を肌で感じ、トリスは思わず言う。
「閉めなくていい。そのままで」
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