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遙か昔の記録によると、人類発祥の地である地球の小国に、一つのことわざがあった。
「ねこに鰹節」
ねこのそばに好物の鰹節を置くこと――すなわち安心できないことのたとえである。
鰹節というのは、カツオという魚を干したものだ。主に出汁を取る用途で作られた物体で、果たしてどの程度、ねこが夢中になっていたのか、いまとなっては記録に残っていないし、現在も検証されたことがない。
そもそも「鰹節」は、大昔の地球の局地的な一民族しか使用しないものだった。同じ時代に生きていたとしても、知らない人間も多かっただろう。
だがトリスには、ねこがどんな反応を示していたのか想像がつく。
宇宙ジャコウネコにカーン・ペットフード社の、ねこ缶を与えたときのように、夢中になっていたに違いない。
「ねこ缶~」
リビングに、変な歌が響き渡る。
「ねこ缶、だいすき~、ねこ缶~。ああ、ねこ缶~。すてきで、おいしい、ねこ缶~」
グレンが限りなく目を細め、即興で作った、ねこ缶の歌を歌っている。
グレンは、ヴェリア星原産の「ヴェリア族」という宇宙生物である。
一見黒髪の子供のようだが、ねこのように尖った耳と、長くてしなやかなしっぽを持っている。
特殊条件下で媚薬に似た物質を発するので、誰もが「ヴェリア族」という名ではなく、「宇宙ジャコウネコ」という通称で呼ぶ。
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