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 銀河法で定められた分類では「動物」になる。だが人語を理解して話すことができるので、耳としっぽさえ隠してしまえば、宇宙ジャコウネコに詳しい者でないかぎり、人間と見間違うはずだ。  しかし人間と違って、一匹が宇宙船一隻分と言われるほど貴重な、銀河の希少生物である。いまや絶滅寸前で、野生の宇宙ジャコウネコは、ほとんどいない。  紆余曲折を経て、数少ない一匹をトリスが飼うことになったが、普通の人間は一生見ることもない生物である。  その希少生物は現在、頭の上に二個、ねこ缶を載せ、ダイニングのテーブルの上にある、ねこ缶の山を、うっとりとした目で見つめていた。  しっぽは、ゆっくりと円を描くように動かし、耳は片方ずつ前に倒したり起こしたりしている。トリスは、いままでグレンが、そんなふうに耳を動かしているところを一度も見たことがなかった。 「これほど喜んで貰えると、私も嬉しいよ」  小さく笑い声を漏らしながら、トリスの目の前に座っている、端正な顔の青年が言った。  漆黒の髪と、晴れた日の空のような青い目が印象的である。体格もよく、貫禄があって堂々としているところが、警察局長のユーベル・ヴァトアールに似ているかもしれない。
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