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トリス・セレネードは銀河でも有数の微生物学者である。
ここは大陸が丸ごと科学技術系の学術都市なので、大勢の地位や権力のある者が訪れるが、トリスの家にまでやって来た「桁違いのセレブ」は、ニコラスだけだ。
しかも半光年先にある宇宙ステーションから、自家用宇宙船に乗ってわざわざやって来たのは、トリスの研究について知りたいからでなく、宇宙ジャコウネコのグレンに会うためである。
そんな物好きに対して自分がどういう態度を取ればいいか、正直分からない。
――そして問題が、もう一つある。
トリスはニコラスの横に腰掛けて、紅茶を飲んでいる少年に目をやった。
艶やかな長い黒髪を一つに縛って、前に垂らしている。目の色は美しい赤で、燃える炎というより磨き抜かれた紅玉のようだ。冷たそうな面差しだが、美しい少年であることは間違いない。
彼が、ただの綺麗な少年ならよかったのだが、あいにくそうではなかった。
ニコラスはトリスの視線に気付いたらしく、少年に対して言う。
「ハニー。久しぶりに同族の顔を見るのは、嬉しくないのかい?」
少年の耳が、ぴくりと動いた。
グレンと同じ、ねこのように尖った耳である。そのうえ黒くてしなやかなしっぽもあった。
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