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「では、この件は終わりですか?」 『はい。ドクター、お疲れ様でした』  トリスは大きく息を吐き、首もとについているスイッチを押した。  空気が抜ける音と同時に、膨らんでいた化学防護服が一気にしぼむ。  トリスは重いヘルメットを外した。  光線の加減で薄紅色にも見える長い銀髪が、ヘルメットから流れ落ちるように現れる。  仕事中は頭の高い位置で結っているが、それでも充分長い。まだ若いうえに希有な美貌の持ち主なので、トリスは学者というよりも個性派のモデルのようだ。  実際、化学防護服に隠れている身体つきも均整が取れており、背も高い。白衣を着て歩いていても、雑誌の撮影に来ているようだと、あらゆる人に言われていた。  だが理知的な青い目の輝きは、トリスがまぎれもなく、銀河でも屈指の微生物学者であることを表している。特にヘディラウィルスの分野では、トリスは第一人者と言っても過言ではなかった。  トリスは、何人もの警察官とすれ違いながらカーゴルームを抜け、宇宙船の外に出た。
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