紡ぎ、築き上げる者たち

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********************* 「ふふふ……よくやったね。これで解決だよ二人とも」 昏倒している村人たちを見て、シャーロットは満足気にソニックとリヴィアに親指を立てた。 「……まさかここまで嵌まるとは思わなかったわね。所詮子供騙しなのに」 「そこはお前の魔法技術と、この笛によるものだ。その上夜という環境下において、十分効果的だったからな」 村に現れたあの水晶状の竜の正体は、リヴィアの操る巨大な水である。 近くにあった川から水を供給した上で、リヴィアの魔法技術で竜を模して村に出現させていたが、例えリヴィアの腕を以てしても、竜の鳴き声だけは真似できなかった。 そこで一役買ったのが、ソニックの持っている角笛、『龍哭きの笛』と呼ばれる道具だ。 本来はワイバーンのような弱小の竜を追い払ったり、竜騎士が騎乗する竜との意思疎通を図る為に用いられるものだが、吹き方によっては、竜の鳴き声にも似た音を発する事が出来る。 それこそ、風魔法を使って村中に響く程の音を発せるようにしておけば、紛れもない竜の鳴き声と錯覚するのも容易だった。 「昏睡させたのは、モンスター用の鎮静薬によるものか?」 「そうとも、本来はある程度希釈させて用いるものだけど、今回はその原液を小瓶5本分注ぎ込んでやったから、全身にかかるだけでも効果は十分あるさ」 結果的に彼らを一網打尽に出来た訳だ。シャーロットはさりげなく『集まってほしい』と忠告をした事も一助となった。 「……さてこのクエスト、どう処理したものかしら?」 昏睡状態にあるボスの男を含めた村人たちを見て、リヴィアは困ったように顔をしかめる。 今回はあくまで採取課としてクエストに来ていたが、ふたを開けてみれば盗賊退治になってしまっていた。この手のクエストは、本来は戦闘課のクエストに当てはまる。 「まぁ、本来の仕事はあのタイミングで終わったし、追加のクエストと思えば安いもんじゃないかな?それに仕掛けてきたのは彼らだし、正当防衛という形なら一番穏便でもあるしね」 「……これを穏便と言えるのかしらねぇ?」 リヴィアの嘆くような声が、夜の帳に溶けていった。 いずれにせよ面倒な手続きは避けられないようである。 ********************* その後三人は、近くの街で一夜を明かしていた馭者を介して、ツェントゥルムから王国騎士とカンパニーに増援を要請。昏睡した村人たち、もとい盗賊たちを捕縛し、件の奴隷商との関連を調査、及び追跡が行われた。 その後行われた調査で、村長の家の地下で監禁されていた人たち(その中には宴で御酌をしていた者も居た)を発見。中には著しく衰弱していた者たちも居たが、献身的な治療を行なったおかげで一命を取り留め、経過観察とカウンセリングを経てから、王国騎士の支援を受ける形で故郷へと帰される運びとなった。 調査が完了した三人は、日が真上まで昇った昼過ぎ頃、たんまり採れた烙火生を抱えてカンパニーに帰還。盗賊退治の件に関しては、連絡を受けた総務課の職員によってクエスト申請と完了の手続きを終わらせていたようだった。 あとは烙火生を依頼主に納品する形だが、異常繁殖した烙火生をそのまま納品するわけにも行かず、シャーロットを含めた学に明るい職員(たまたま手が空いていた者たち)の面々が、有害物質が含まれていないか詳しく調査する事となった。 「……うぅっ、辛いですね。烙火生」 「こういうのは酒と合わせるといいらしい。まぁこれ単品でも十分だが」 カンパニーのリビングでは、場違いとも言えるメイド服を身に纏った薄ピンク色のショートヘアが目を引く少女、『ローズ・ヴァーミリオン』と、烙火生の成分解析の結果待ちで待機していたソニックが居た。 二人は小袋に入っている烙火生の実をポリポリと食べており、ローズはその辛味に顔をしかめている。対してソニックはそこまで気にならないようで、顔色一つ変えず一粒一粒と食べ続けていた。 その様子を横目に、リヴィアが呆れるように眉をひそめている。 「ちょっと、まだ結果が出てないのに大丈夫なの?」 依頼主に納品するものを勝手に食べていいのか。というより、死体が埋まった土壌で育った烙火生を口にしていいのか。というニュアンスで、リヴィアは二人に言った。 しかしソニックとローズはどこ吹く風のようである。 「少しくらい大丈夫だろう。問題があったらシャロに薬でもこさえてもらうさ」 「わたしは、まぁ興味本位です。わたしのご主人様も辛い物がお好きですから」 「……あとで何があっても知らないわよ」 これは介抱する準備が必要かしらね。とリヴィアが困り顔で考えていると、烙火生の入った袋を携えたシャーロットが上階から降りてきた。 「やぁみんな、待たせたね。烙火生の成分解析が終わったよ」 「で、結果はどうだったの?」 「元来のより少し辛く出来ているけど、人体に影響のある有害な成分は見受けられなかった。全部食べても問題はないよ」 シャーロットの報告に、リヴィアはほっとしたように小さく息を吐く。少なくとも介抱する手間は省けたようだ。 「そう……じゃあこれで烙火生を納品出来るわね」 「頼んだよリヴィアちゃん、これが依頼された納品分の烙火生だ」 シャーロットが持ってきた烙火生の袋は、あの時採取した分より半分ほどの大きさだった。とはいえ決して少なくない量で、一人で食べるにしてもひと月は賄える程だ。
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