紡ぎ、築き上げる者たち

12/13
前へ
/18ページ
次へ
それを見たローズは、溌剌(はつらつ)とした様子でクエストの代行を名乗り出た。 「じゃあ、わたしが持っていきます!リヴィア様はクエストでお疲れでしょうから、ごゆっくりお休みください!」 「?良いのかしら?あたしの仕事だったんだけど」 異常繁殖した烙火生の駆除及び、採取した烙火生の納品込みで行うつもりだったリヴィアは、ローズの提案に戸惑った。 そこにシャーロットが、助け舟を出す形で言う。 「まぁお言葉に甘えて貰おうよ。そもそも一泊する件も盗賊退治も、突発的な出来事だったし、今日はゆっくり休むと良いさ」 「そうだな。途中で倒れられたりするのも大変だ」 ツェントゥルムから村までの移動を考えれば、体力にあまり余裕がないリヴィアには疲労が溜まりやすいだろう。そういう気遣いを察することが出来たリヴィアも納得して、その提案を呑む事にした。 「……わかったわ。じゃあローズ、ここに納品してくれるかしら?」 「はい!ではご確認を……おや?」 リヴィアから手渡された依頼書を確認して、ローズは意外そうに目を見開いた。その様子にシャーロットが尋ねる。 「?どうかしたかい?」 「……このクエストの依頼人、どうやらわたしのご主人様のようです」 「……は?」 ローズの告げた事実に、リヴィアは思わず変な声が漏れた。 烙火生の納品を依頼した人物。それはツェントゥルムでも有数な貴族で、ローズをメイドとして雇っている人物だった。よくよく思い返してみれば、ローズがカンパニーに入社する際、とある貴族のメイドをしていると言っていた気がする。まさかその貴族からの依頼だったとは、三人は気付かなかった。 「なんだ、最初からローズにも頼めば解決だったな」 「いえいえ、昨日はお暇をいただいておりましたから難しかったかと……しかしリヴィア様の休養になれるならば、このローズ・ヴァーミリオン、喜んで引き受けさせていただきますよ!ではっ!」 烙火生の袋を、サンタクロースのように背負い込んでから、ローズはそのまま全速力でカンパニーを後にした。せわしなく飛び出したその様子は、さながらつむじ風のようであった。 走り去ったローズを見届けたリヴィアは、途端力無くテーブルに突っ伏した。 「……なんか、急に疲れが出たわ」 烙火生の納品から始まった異常繁殖した烙火生の駆除、そしてそれに付随して発覚した盗賊の存在と退治。それだけでも大変だったと言えるが、 その烙火生の納品を依頼してきたのが、よりにもよって同じカンパニー職員の知り合いだった事実に、リヴィアの中で張っていた緊張の糸が切れてしまったようだった。 「これは……まぁ、リヴィアの気持ちもわからなくもないな」 「他の職員の家庭環境とか把握出来るわけじゃないしね。こんな事もあるっちゃあるさ」 カンパニーに届く依頼は千差万別だ。それと同じように、依頼を発注する人物も千差万別で、その人物が知り合いだったり、身内だったりという事がある。今回はその事例にあたっただけの事だ。 「……ま、今日はクエスト受けるつもりないし、シャーロットのお言葉に甘えてゆっくり休むとするわ……カメラートでシズミカンのクリームソーダでも一杯やろうかしら」 「ほほぅ」 カンパニー職員行きつけの店の名前が出た途端、シャーロットの目が光る。 「それは良いねぇ、ならば私もご相伴に預か」 ついて行く気満々なシャーロットが、おねだりするような猫撫で声を上げようとして、 「シャーロット」 そこをピシャリと遮るように、リヴィアでもソニックでもない人物の声が飛び込む。 そちらに目を向ければ、ソニックより高い背丈が目を引く、逆立った黒髪の男性が立っていた。 名前を呼ばれた本人は、その男性を見て嫌そうに顔を歪める。 「げぇっ、カイトくん」 『カイト・スティール』、かつては戦闘課に所属していたが、ここ最近総務課に移籍した職員だ。ついでにシャーロットの天敵と言える相手でもある。 「……少しは隠す努力をしろ。まぁそれより」 カイトはシャーロットの露骨な態度に苦言を呈しながら、一枚の依頼書を渡してきた。 「帰って早々悪いが、お前にクエストだ。この前大量発生したモンスターの生態調査なんだが」 「悪いと思ってるのなら他を当たってくれないかい?いくらこのシャーロットさんでも難しい事があるのだけれど?」 シャーロットがそう言うのも無理はなかった。ツェントゥルムから村までの往復に加えて、烙火生と土壌の採取及び成分解析や、捕縛した盗賊の身柄引き渡しのような細かい作業は、彼女が一手に担っていたのである。 奢られる気力はあれど、クエストを受ける余力は残っていなかった。 「そう言いなさんな。このクエストは急を有する。カンパニー随一の調査能力を持つお前を見込んでの申し出なんだがな」 さらりと賛辞するような言葉を交えるカイトになびきかけるシャーロットだが、堪えるように首を軽く振る。 「む……言うじゃないかカイトくん。しかしその手には乗らないよ。今日は折角だから休ませてもら」 「魔晶華起因の案件だと思われる……と言われてもか?」 「前言撤回だ。そのクエスト受けようじゃないか」 何やら意味深な情報を口にした途端、シャーロットの態度が一変して受注を引き受ける姿勢に切り替わった。その様子はさながら吊るされた餌に食いついた魚のようで、ソニックとリヴィアは呆れるように額に手を当てている。 「場所と、調査期間は?」 「ブラウ海岸だ。出来れば一週間以内が望ましい。もし期間が延びるなら、あらかじめ総務課に一報くれたらいいさ」 「ふふん任せたまえ、一週間と言わず一日で済ませてやろう。というわけでひとまず道具を取りに行くよ。失礼」 最低限のやり取りを終えてから、シャーロットは先ほどのローズと同じようにカンパニーを飛び出していった。クエストを終えたばかりとは思えない体力である。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加