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立ち去ったシャーロットを見送ってから、リヴィアはカイトに問いかけた。
「……カイトさん、まさかとは思いますけど、魔晶華起因の案件って、嘘ですよね?」
ブラウ海岸はモンスターがたびたび発生しているが、ツェントゥルムからも比較的近い場所にあるため、本当に魔晶華起因であればパニックになるはずだ。
対してカイトは、悪びれる様子を見せずに答えた。
「でなきゃあいつがやる気にならねぇだろ。あの調子だと多分テーブルにしがみついてでも動かん」
「やっぱり……」
もし嘘だとバレたら、カイトに泣きながら詰め寄るシャーロットが目に浮かんだ。魔晶華を研究材料と見ている彼女だからこそだろう。とリヴィアは静かに思った。
だが彼はそんな意地の悪い理由で彼女を追い払った訳ではないようだ。
「それに、あいつには出来るだけ知られないようにする必要がある」
「?何故だ?」
嘘をついてまで、彼女を追い払った理由。ソニックとリヴィアが首を傾げていると、カイトがその疑問に答えた。
「ジュエルクエスト」
「……!」
「ツェントゥルムとハーフェンの海峡で魔晶華が発生した。これを除去する為、ジュエルクエストを発令した。という事だ」
ジュエルクエスト。
ジークエアーデ王国を中心に発生している魔晶華を、速やかに排除する為の特別なクエストだ。基本的に新入りの職員は参加できない。魔晶華によって呼び寄せられ、凶暴化したモンスターを対処しなければならず、未だ不慣れな新入りには荷が重すぎる為だ。ゆえに参加出来るのは、クエスト適正のある職員や、この手のクエストに場慣れした熟練の職員である。
このクエストが発令されたという事は、魔晶華の出現を示唆していた。
二人は合点がいく。もしシャーロットがジュエルクエストの事を嗅ぎつけば絶対に参加するだろう。
しかし彼女は前回のジュエルクエストで魔晶華を破片とはいえ無断で持ち出そうとした前科があり、どうにかして遠ざけようと、カイトが一芝居打ったようだ。
「一応言っとくが、生態調査の依頼は本当だ。ジュエルクエストに出向く奴、その間に総務課の業務に勤しむ奴、通常のクエストに出向いている奴、そもそも休みで出てこない奴、それを差し引いて動けるのがシャーロットだけだったんでね」
「それを聞いて安心した」
その辺りも嘘だったら、それこそシャーロットが怒り狂うだろう。魔晶華起因の案件が嘘だった事も踏まえてだ。
「そこで、今回ジュエルクエストに出向くメンバーだが……ソニックはともかく、リヴィアは難しいな。その日は非番だったろ」
ハーフェンはリヴィアの故郷でもあった為、受けるつもりだったが、生憎ジュエルクエストを行なう日は休みを入れていたので不可能だった。
「……休日返上して良いので、参加させても」
「ダメだ。ちゃんと休め」
「……はぁい」
すげなく断られてふくれっ面のリヴィア、気持ちはわからなくもないが、休養する事も大事だ。
「ソニックはどうする?お前の腕っぷしなら充分だと思うが」
並みのモンスターならソニックにとっては敵ではない。タンク役としても心強かった。
しかしソニックは、芳しくない様子で口を開いた。
「……いや、俺も遠慮する。海峡に向かうなら当然船に乗るわけだ、戦闘中うっかり船を壊しかねないからな」
なにせ大剣を振り回す際、甲板やらマストやら破壊してしまう恐れもある。かと言って手加減してしまえば魔獣相手に苦戦を強いられるだろう。ソニックの説明にカイトは納得するように頷く。
「その代わり、シャロの付き添いという形で、生態調査のクエストを受けさせてくれないか?そっちの方がマシだと思う」
調査における護衛兼、シャーロットが暴走しないようにするための保護者役。ジュエルクエストと比べれば幾分か難易度が落ちるものの、それなりに重要なクエストになりそうである。
「分かった。社長には別の奴にしておくよう伝える。シャーロットを頼んだぜ」
「あぁ、任された」
カイトに応答してから、ソニックもカンパニーから外出していった。
十分な休息は取ってはいないが、この程度はソニックにとって大したものではなかった。
それよりも、ソニックは魔晶華とは関係ないただの生態調査に向かった同業者に対して、どうやって誤魔化すかを考える事に集中した。
場合によっては、ジュエルクエストよりも厄介な案件だろうなと、ソニックは内心呆れるのだった。
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