地底都市の大冒険

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「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ……」 カンパニーの受付のある大広間、備え付けの大テーブルに突っ伏しながら滂沱(ぼうだ)の涙を流す職員が一人、シャーロット・ドリトルである。 彼女は先日まで、ジュエルクエストとは別のクエストを受けており、ジュエルクエストの件は全くもって寝耳に水同然だった。 というのも、彼女が受けていたクエストが、カイトから『魔晶華起因の案件だと思われる』と聞かされていたからだ。無論”思われる”わけであった為、実際は魔晶華とは全く関係なかったが、シャーロットはその辺りとやかく言うつもりはなかった。 問題はジュエルクエスト発令されてあったにも関わらず、シャーロットには一切聞かされていなかった事だ。報告書を引っ提げてカンパニーに戻ってようやく知った際には、その場で大泣きした挙句、テーブルに突っ伏して滂沱の涙を流すという奇行に走ったわけだ。かれこれこの状態になってから、一日が立とうとしている。 「……思った以上に重症だな。てっきりカイトに詰め寄ると思っていたが」 その情けない様子を遠目から見ていたソニックは、何とも言えない様子だった。彼もシャーロットと同じクエストを受けていたが、彼はジュエルクエストが発令している事を知っていた為、共犯とも言える。それ以上にシャーロットがやらかした事を踏まえれば、ジュエルクエストの事を知らせないのも無理はなかった。 「仕方ないわよ。シャーロットって魔晶華を調査する為にカンパニー入ったようなものだし、カイトさんに詰め寄る気力もないわよ」 そのぼやきを返したのが、隣で朝食のパンを口にしているリヴィアだ。この後クエストを受ける為、カンパニーで朝食を摂っていた。 「二人とも、どうにか出来ませんか?大広間であんな事されたら、お客さん怖がっちゃって大変なんですよ……」 二人に救いを求めるように声を上げるのは、総務課の職員である白衣姿の少年だ。彼は先日から窓口業務に携わっていたため、テーブルに突っ伏すシャーロットの様子には見てて堪えられなかったようだ。 「そうは言うがな……アレは俺たちが言っても動かないぞ」 「そうね。物理的に動かすっていうなら、やれない事は無いわよ」 「もうそれでも良いので、とにかくどうにかしてください」 そんな不穏なやり取りを繰り広げていると、受付の奥から制服姿の少女が依頼書を持って現れた。白衣姿の少年と同じ総務課の職員であり、ピンクブロンドのセミロングヘアをサイドテールに纏めた少女、『ヒーリア・エレクセン』である。 「お待たせしました、手ごろなクエスト持ってきましたよ」 「ありがとうヒーリア」 一言礼を言ってから、受け取った依頼書の内容を確認する。 マオルブルフ近郊でしか取れない薬草と、防具に使う素材の採取だった。 「……これって、採取課のクエストじゃない?あたし一人じゃ流石に無茶だと思うわよ?」 リヴィアはあくまで戦闘課の職員だ。一応カンパニーがよく採取する素材は一通り目を通してはいるものの、本職と比べれば足元にも及ばない。しかも今回採取するものは、リヴィアでもよく知らなかった。 「勿論、他の採取課の方と一緒に行くのが前提です。周辺では危険なモンスターが出没するので、戦闘課の方に同行してもらいたいんですよ。その、一緒に行ってほしい方が、あんな感じですが……」 ヒーリアはちらりと、テーブルにうつ伏せになっているシャーロットを一瞥する。どうやら採取課のシャーロットと一緒に受けてほしかったらしいが、あの有様を見て流石に無理だと察したようだ。 「悪いが、シャロはあの有様だ。他の職員に行かせるほかないぞ」 「しかし、グイードさんは総務課の手伝いで手が離せませんし、この手の話に食いつくフェンさんに至っては別のクエストに出てますから……とはいえ他の職員さんじゃちょっと荷が重いので……おや?」 さあどうしようかとヒーリアが頭をひねらせていると、カウンターに居る白衣の少年が目に留まる。 「……あの、ナイジェルくん。もしよかったらだけど、このクエストに同行してくれる?」 「?ボクですか?」 こっちに話が向くと思っていなかったのか、白衣の少年は自身を指差して言った。 「でも、しばらく総務課の仕事を頼むって言われてるんですが……」 「大丈夫。窓口業務ならわたしが代わりにやってあげるから。ね?」 不安げな少年を安心させるように、ヒーリアは優しく言い聞かせた。鈴の音のような可愛らしい声色には、渋っていた少年の不安をほぐすのに充分だった。 「……わかりました。シャーロットさんの代わりは荷が重いですが、精一杯勤めさせていただきます」 こうして、今回のクエストを受けるメンバーが決まった。 ソニック・ブルーナス、 リヴィア・アンカレッジ、 そして白衣の少年、『ナイジェル・マクスウェル』 の三人。 彼らが目的地はマオルブルフ、 王都ツェントゥルムより北東に存在する地底都市だ。
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