紡ぎ、築き上げる者たち

3/13
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
そんな会話を交えて、二人がいざクエストを受けようとしたところで、また別の人物がロビーに現れた。 「おっと……誰かと思ったら、リヴィアとシャロか」 背中に大剣を差し、青みがかった黒髪を一本に纏めた髪型が目を引かせた、目の下に隈取の赤いフェイスペイントの男性。ソニックだ。 「あらソニック。あんたもクエスト受けに来たの?」 「まぁな……空いてるものがあるなら、受けるつもりだ」 「ソニーくんナイスタイミンだね。是非とも受けてほしいお仕事(クエスト)が一つあるんだけど」 そう言って、シャーロットは烙火生の採取と駆除のクエストをソニックに伝えた。 「……なるほど、要は採取課の仕事か」 「腕の立つ職員が居ると、採取課としてはありがたい話なんだよねぇ。途中でモンスターとか現れたら大変だし」 グリューン平原は他の地域より危険度は低いが、商人からすればモンスターが現れかねない危険な場所でもある。今回向かう村も、モンスターが出現しないという保証はない。 リヴィアも戦闘課に所属してはいるが、基本的に中距離戦闘が主体なので、近距離戦闘の行えるソニックは必要な人材であろう。シャーロットはそこに着眼した上で、頼み込んだのである。 「……わかった。俺も受けよう」 少し考えてから、ソニックは了承した。 かくして、リヴィア、シャーロット、ソニックの三人は、烙火生の採取及び駆除のクエストを受けることとなり、1時間後には、手配された馬車に乗って王都ツェントゥルムを出発したのだった。 ************** 三人を乗せた馬車がグリューン平原を抜けて、森林地帯へと差し掛かったところで、シャーロットが確認のために、ウエストバッグから物を取り出して並べていた。 シャーロットの目の前で並べられたそれらは、ぱっと見ガラクタにも、玩具にも見える代物の数々。シャーロットでなければ、どんな用途で使われるかもわからないものだらけである。 その様子を見ていたリヴィアは、うんざりするような表情で苦言を呈した。 「シャーロット、何でもかんでも入れて持ってくる癖やめなさいよ」 「備えあれば嬉しいものだよ。リヴィアちゃん」 「その備えでひどい目に遭うのよこっちは」 現にリヴィアとソニックも、過去にその魔道具によって被害に遭っていた。今にして思えば、忘れたい出来事でもある。 「ひとまず、烙火生が群生している場所の土を採取する為の容器は、何本か持ってきたし、麻痺毒を持つ蜂に万が一刺されてもいいように、麻痺中和薬も持ってきたよ。後は、あったらいいなの諸々多数」 その麻痺中和薬だが、見た目は緑色のどろりとした液体の入った瓶だ。見ただけでもおどろおどろしいもので、何故か吐き気を催すような色合いだ。 「いつ見ても飲む気が失せる色合いだな」 「目で見て、いかにも不味い。って感じにしてるからね。その方が普通より苦く感じるようになるから、麻痺も緩和しやすくなるんだ」 「出来ることなら、飲まずに済んでほしいわね」 過去に服用した事があるリヴィアは、苦虫を噛んだ表情で言う。あの時はやむを得なかったとはいえ、正直あの苦味には参っていた。 シャーロットは一通り持ち物を確認して、全部ウエストバッグへと戻した。 「まぁ、一応さ。何なら麻痺が抜けるまで大人しくしても良い。その時はソニーくんにだっこしてもらうけどね」 「あんな不味いものを飲むくらいなら、考えてやらないでもないわ」 「そんな嫌々みたいに言うな」 そうして、三人を乗せた馬車は深々とした森林の中を進み、ようやく目的の村に辿りついた。 そこは数十軒ほどの家屋が森の中で点在している小さな村だった。こんな辺鄙(へんぴ)な村の周辺に、烙火生が自生していると考えると、中々に危うい場所ではあった。何せ燃えやすいものがそこら一帯にあるのだから、あっという間に火の手が上がるのが目に見えている。 しかもここから近くの街まで相当な距離があり、避難するにしても救援を求めるにしても、条件が悪すぎる場所だった。今回依頼が上がるまで烙火生の被害が出なかったのは、最早奇跡と言えよう。 烙火生駆除のクエストを発注した村長に挨拶を交わした三人は、早速烙火生が自生すると思われる場所へと案内される。 「……うひゃあ」 その光景を見たシャーロットは、呆れるような声を上げる。 森の開けた場所であろう草原、生えているのは、足にもかからない程の小さな雑草、ではない。 25~50センチもある草丈、火の形にも見た模様の葉、警戒色である赤に染まった花、それらが特徴の植物が、小さな草原に所狭しと群生していた。 「……間違いないね。これ全部烙火生だ。ここまで群生してるとは、思わなかったけど」 この辺り一帯が活火山周辺であれば、珍しい事ではなかっただろう。しかしここは森の中だ。とても自生出来るような環境ではなかったはずだ。それなのに、烙火生は我が物顔で自生していた。 「なら、俺の魔法で全部切り落とすか」 「ちょっとちょっと君ぃ、早まっちゃいかんよ」 ソニックが背中に差している大剣を抜こうとした時、シャーロットが慌てて止めに入った。 「烙火生は花に衝撃を与えると爆発するんだ。いくらソニーくんの魔法でも、撃ち漏らして爆発でもしたら大変だよ」 しかも烙火生は密集している為か、他の烙火生にも反応して花が誘爆する恐れもある。最悪一帯が火事になる事も目に見えていた。 「む……ならどうする?」 「ふふ、その為のリヴィアちゃんだよ。それじゃあ、お願いね」 「はいはい」 そう言って、リヴィアは腰に差している手杖を握って、指揮者のように動かすと、群生する烙火生の上に水の大きな球体が出現する。 そして球体は下方向へと、水を雨のように降らせ始めた。 雨に当たった烙火生の花は、(にじ)んだ色合いに変化しながら、しおれるように下向きに俯いた。 烙火生の花には起爆性があるものの、水で濡らしてしまえば、爆発する事はない。しかし所詮は一時的な処理にしかならないので、濡らした花をもう一度乾燥させてしまうと、また爆発するようになる。 なので烙火生の花を完全に駆除するには、水で湿らせた上で、花を切ったり毟るなどして処理するのが基本だ。広範囲に水を撒いたのも、処理中に湿っていない花を踏んで爆発させない為の前処理である。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!