紡ぎ、築き上げる者たち

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「……これぐらいかしら」 「うんうん、上出来だね。それじゃあ作業開始だ」 思った通り、水で濡れた烙火生の花は、三人が踏んでも爆発する様子はなかった。とはいえ乾いたらまた爆発する危険があるので、乾く前に手早く烙火生の花を手で千切ったり毟ったりしながら、実を回収していく。 地道に花を処理し、実を回収するソニックとリヴィアに対して、シャーロットは何やら興味深そうに、花を処理した烙火生を丸ごと引っこ抜き、容器にいくつか入れていた。駆除と採取の他に、何故自生しているのかという調査も含まれている為、土壌と一緒にサンプルとして持ち帰るとのことである。 駆除作業は滞りなく、順調に進んで行くものの、群生した烙火生を全部処理するのには、三人だけでは中々骨が折れた。半分程処理し終わったところで、ソニックが大剣で一気烙火生を斬り落とし始めた。その様子にリヴィアとシャーロットは肝が冷えたものの、爆発を引き起こす事はなかった。なおソニックは叱られた。 その後も特に問題はなく駆除作業は淡々と続き、数時間後。 「……これで最後、だね」 「はぁ、疲れたわ……」 群生していた烙火生は全て根絶、処理され、鬱蒼としていた草原はすっきりしていた。 なお烙火生の実は、予定していた受注数を大きく上回ってしまい、合計6袋の大荷物になってしまった。 「余った分は、カンパニーのお土産にしておこう。酒のつまみにも合いそうだ」 「渡すなら一通り調べてからだよ……ふむ」 シャーロットは容器に詰め込まれた烙火生と土に注目する。見ただけで全てがわかるわけではないが、何か思うところがあったからだ。 「(火山地帯と同じ土壌が、ここらで存在するとは思えないね……人の手によって作られたとするなら……?)」 「シャーロット、そろそろ行くわよ」 烙火生の実が入った袋を持ったリヴィアは、その場で立ちつくすシャーロットを呼ぶ。 呼ばれて気が付いたシャーロットは、容器をウエストバッグに仕舞いこんでから、二人の後を追うように村へと戻った。 ******************* 村長の家で報告に訪れた三人は、目の前に並べられた料理の数々と、それを囲むように座る村人たちに首を傾げていた。 「……えっと、村長さん?これは一体?」 「えぇ、聞けばカンパニーの皆様方は、遥々(はるばる)王都より我が村までご足労いただいたものですから、お礼を兼ねたもてなしとして、我が村の宴に是非同席していただこうと思った次第でございます。これらは、我が村で採れた作物でこさえた馳走(ちそう)でございます」 村長は柔和な笑みを浮かべながら、三人の疑問に素直に答えた。 見ればほとんどは野菜料理が中心で、肉類はあまり見られない。しかしどれも、思わず食欲をそそるものばかりだ。 「成程、村長のご厚意なら是非とも戴こうか」 ソニックはさも当たり前のように、敷かれている座布団に座った。しかしリヴィアはどこか躊躇い気味だった。 「……良いのかしら?ただ烙火生駆除しただけなんだけど」 烙火生は危険な植物ではあるものの、基本取り扱わなければ無害だ。モンスター退治に来たわけでもなかったのに、ここまでもてなされるのは、むしろ気が引けていたのである。 「まぁまぁ……折角作ってくれたんだし、戴こうよ」 「……そうね」 既に座っているシャーロットに促される形で、リヴィアも倣うように座った。そんな時、村の女性たちが大きな徳利と木製のビアマグに似た酒器を手に、部屋に入ってきた。 その徳利から漂う香りに、シャーロットは顔をしかめながら呟く。 「うへぇ……お酒かぁ」 「おや、苦手でですかな?」 「えぇ、匂いでも酔うくらいなんですよ」 ソニックとリヴィアからすれば、鼻につきはしても、そこまで強烈ではない。筋金入りの下戸であるシャーロットが酒に対して強い苦手意識を抱いているからこそである。その酒の弱さは、ひとたび飲んでしまえば、普段から想像出来ない程の泣き上戸になる始末だ。 「ほぅ、そうですか……ほれ、その方には水を手配しなさい」 「……はい」 一人の女性が受け答えし、すぐにシャーロットのビアマグには、水が注がれた。 他の二人には、通常通り酒が振る舞われる。 不意にソニックは、ビアマグを持ち上げながら、その中で揺れている液体をまじまじと見つめている。 「……これはもしや、プラントテキーラか」 「お目が高い。我が酒蔵で醸造されたものですよ」 プラントテキーラ。熱帯植物である『ウツボーン』の分泌液を醸造したもので、市場ではあまり見かけない酒だ。アルコール度数が、通常のテキーラとほぼ同じだったのが由来である。 「通りで匂いがきついと思ったよ……あれって結構きついんだよね」 「シャーロットじゃ無理もないわね。あたしは一杯が限界だけど」 「はは……でしたらそちらにも、後で水を手配致しましょうか」 そして全員のビアマグにプラントテキーラが回ったところで、村長が代表して宴会の音頭を執り行う。 「さて……皆の者、今回こうして宴が開かれたのは、今年も民が飢える事無く、収穫を一通り行えた天に感謝と礼を尽くすものである。なお今回は急遽、村はずれに生え始めた烙火生の駆除を行なってくれた、カンパニーの方々も同席していただいた。よそ者であろうが、気を悪くしないでくれ」 「…………」 村人たちの中には、奇異の視線で三人を見つめる者が居る。滅多に外からの客人が珍しいのか、あるいはこのような宴の席に部外者が居る事に、違和感を抱いているからなのか。 「(まぁ、こんな場所だと、そんな目で見たくなるわよね……)」 自身たちに向けられた視線を気にしていると、おもむろに村長がプラントテキーラが注がれたビアマグを手にし、村人達やソニック達もそれに続いた。 「今日は無礼講だ。諸君、大地の恵みを存分に味わうと良い、乾杯!」 「「「「乾杯!」」」」 その後の様子は、まさに飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ、村の人間やよそ者関係なく、宴は深夜まで続いた。本来であればツェントゥルムに無事到着している時間帯だったが、三人は宴の空気に当てられ、時間を忘れて存分に堪能するのだった。
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