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宴が終わる頃には、既に夜も更け、森は昼にはない不気味な雰囲気を漂わせており、今からツェントゥルムに戻るにしても、夜が明ける時間帯になるだろう。
流石に馬車に揺られて一夜を明かすのは精神的にきつい上、一晩中寝ずに起きている馭者や馬の負担を考えた結果、出発は早朝となった。なお来客が宿泊出来る場所が無いか村長に聞いたところ、村長の家付近にある離れで一夜を明かす事になった。
中はそれなりの広さで、三人が雑魚寝になっても十分過ぎるスペースである。
「ご厚意とはいえ、流石に長居し過ぎたね。馭者さんを近くの町で待たせてもらってるのが申し訳ないよ」
この村に手ごろな厩舎は無かった為、馬車は近くの町で待機して貰っていた。その時遠距離で会話が出来る通信石を渡していた為、馭者が馬車を村まで持ってくる手間が省けた。
「元はと言えば、ソニックが先に居座ったのが問題ね。しかも途中から舞踊まで披露しちゃって」
宴が盛り上がってきたところで、同じく出来上がっていたソニックが、余興としてあまり見せない舞踊を披露していた。最初は戸惑い気味だった村人たちも、その華麗さに見惚れて盛り上がった。
そのお陰で宴を抜ける機会を完全に失ったのだが。
「……夕食を摂る手間が省けたと考えれば、得だろう?」
当の本人は、赤らめた表情のまま、反省した様子もなく答えた。もしかしたらまだ酔ってるかもしれない状態なので、リヴィアは疑いの目を向けている。
シャーロットは特に気にする事なく、野宿用の毛布を取り出した。
「まぁいいさ、ちゃんと烙火生は駆除も採取も済んでるしね。その変わり朝一番で出発だから、寝過ごし厳禁だよ」
「えぇ」
「わかった」
思えば烙火生の駆除に加えて、宴で盛り上がって火照っていた身体には疲労感が溜まっていた。シャーロットが持ち合わせていた毛布を掛け布団にして横になったリヴィアは、一気に押し迫った睡魔に身を委ねるように眠り込んだ。
それに釣られるように、ソニックとシャーロットも、毛布に包まって横になる。
その際、ソニックは思い出したように、眠そうにしていたシャーロットに尋ねた。
「……そうだ、シャロ。一つ頼みがある」
「?なんだい」
******************
「……もう寝たな?」
「奴らのビアマグに、微量の睡眠薬を混ぜておいたから、奴らは間違いなく夢の中だ」
月の光しか届かない村の一角は、不自然なほど明るい松明の光が照らされている。
その松明を一つ持った村人を含めた四人が、ソニック達が寝泊まりしている離れの前に立っていた。
「しかしボスも大胆な事を思いつくな。カンパニーの職員を捕縛して奴隷として売り飛ばすなんざ、一歩間違えりゃ俺たち間違いなく指名手配だぜ」
「元より烙火生の駆除が済んだら、そうするって決めてたからな。それにこの手の仕事をする職員ってのは女が多いらしい。恰好のカモってやつだ」
恰好の餌食か、鴨ネギと言いたかったのだろうが、誰もその事を指摘する事なく、離れの扉をゆっくりと開けた。
中には掛け布団を被った三つの人影、小さく寝息を立てて寝ている水色髪の女性と、よだれを垂らして眠りこけている橙髪の女性、頭から掛け布団をかけて眠る男性だ。
「……一応確認だけどよ、男の方は殺すんだよな?」
「あぁ、得物からして、間違いなく手練れだ。それに売り飛ばしても良い値打ちにはならないだろうし」
「違いない」
四人の村人は離れの中に入り、それらを囲むように近づいた。気付かれないよう、松明を持った村人は入り口に近い方に立つ。
「……へへ、こいつよく見りゃいいツラしてやがるぜ。カンパニーの職員なのが勿体ねぇな」
「よし、まずこの水色髪の女から縛るぞ」
村人達は荒縄を手に、寝息を立てている水色髪の女性の腕を掴もうと手を伸ばした。
「なるほど、つまりお前らは奴隷商の差し金か」
突然、村人の誰でもない声が響き渡り、誰もが身を強張らせた。村人達は手を引っ込め、男性が眠っているであろう掛け布団を凝視する。
「……!」
村人の一人が、膨らんだ部分の掛け布団を剥いだ。
そこに声の主は居ない。あるのは烙火生が積み込まれた袋だけだった。
ならば声の主は。と思った瞬間、突然村人の一人が吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「な、何が」
突然の出来事に呆気に取られている隙に、もう一人の片頬に衝撃が走り、その場に倒れ伏す。
「明かりを照らせ!この暗闇じゃ部がわる」
そしてもう一人。ガラ空きだった腹部に衝撃を受けて、同じようにその場で崩れ落ちた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!?」
最後の一人は、状況が掴めずに、松明を一心不乱に振り回した。しかしそれは悪手である。
向こうからすれば、実に恰好のカモなのだから。
******************
「……ふん、多少の苦戦は覚悟していたが、随分と呆気ないな」
ソニックは松明を手にしながら、吐き捨てるように言った。
あの暗闇の中で、侵入してきた村人四人を倒したのは、彼だ。
元より、ソニックはこの状況をある程度予測出来ていた。理由はいくつもあったが、きっかけはこのクエストを受ける数日前、ツェントゥルムの酒場で聞いた噂話である。
『グリューン平原にあるどっかの村じゃ、訪れた客人を捕らえて他国に売り飛ばすらしいぜ。宴会の席に誘って酔い潰した上でな』
その噂話を、隣で呑みながら聞いていたソニックは、このクエストの詳細を聞いた段階で、この村の事ではないかと勘繰った。
そして宴のあたりで、懸念は確信へと変わる。もてなすだのなんだの言って催せば、客人は喜んで参加するだろう。それはまさに最後の晩餐の如き大盤振る舞いだ。油断しきったところを、今のように捕縛する。噂通りの手口だ。
とはいえ手口を事前に聞いてたとはいえ、所詮は噂話。確信がいくらあっても、実際にそのような凶行に及ぶかという確固たる証拠はなかった。なのでソニックはもてなしを存分に受けながらも、二人と同じように掛け布団に包まると見せかけて、入り口から見て目立ちにくい部屋の隅っこで、布を被りながら座って寝ていた。
その方が、何かあった時に、すぐに行動を起こせる。前職で培った知恵というものだ(とは言っても、ちゃっかり酒は飲ませてもらったが)。
「さて、そろそろ起こすか。まさか仕留めておいて、あっちが何もしてこないとは思うまい」
気絶させた村人をどかしてから(荒縄を持っていたので、ついでに縛っておいた)、熟睡しているリヴィアとシャーロットを起こし、事情を説明する。
最初は信じてなかった二人も、部屋の隅で伸びている村人四人を見て、すぐに理解を示した。
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