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「……本当に信じられないわね。寝てる間にそんな事があったなんて」
リヴィアは既に寝ぼけ目から、覚醒しきった目つきに変わり、気絶している村人たちを睨みつける。なお手には、いつでも攻撃出来るよう杖が握られていた。
「なるほど、だから寝る前に麻痺中和薬を飲んだ訳だ。酔い覚ましに服用して、一晩中監視に入っていた。と」
眠る直前、ソニックはシャーロットから、例の麻痺中和薬を受け取って、服用していた。
酒に強いソニックとて、流石に飲み過ぎたのもある上、いざという時十全に動けないかもしれないという懸念もあったらしい。シャーロットは妙に納得した様子だった。
「確信半分疑惑半分だったが、これで繋がった。ここはいわば追い剥ぎの村、盗賊村とも言うだろうな」
「そんな村に、あたしたちは訪れたわけね……じゃあこのクエスト自体も、あたしたちを誘い込むための罠だったってわけ?」
烙火生の受注依頼があった時に、この村の烙火生駆除の依頼もあった。まるで指し示すような感じだったが……
とリヴィアが疑念を抱いたところで、シャーロットが首を横に振りながら否定した。
「烙火生が自分たちでも処理出来るのならそうだけど、烙火生はここらじゃ自生しない植物だから、むしろ騙すつもりはなかったんだろう。私から言わせれば、ついでとも言えるようなものだけど」
村の外れに自生した烙火生を駆除して貰える上に、獲物も付いてきた。正に一挙両得、一石二鳥だ。何なら採取した烙火生も掠め取ろうとも思っただろう。
「……考えても仕方がない。ひとまずここから離れるぞ。増援が来るかもしれないからな」
ここで他の村人と遭遇すれば、戦闘は避けられない。三人は壁に穴を開けて、離れを脱出した。
月明かりがあるとはいえ、村は夜の帳が降りていた為、とても薄暗く、彼らが持っていた松明が無ければ、目を凝らしてでないと見えない。
「うーん……これならイエローシグナルでも持ってくるんだったなぁ」
「魔力を消費しないだけマシでしょ……それで、このあとはどうする気?このまま村を出るのかしら?」
自分たちが狙いだと解れば、ここを長居する理由はない。むしろ長居する方が捕まる可能性が高くなるからだ。
しかしソニックは、その方法を採らない。
「いや、あいつらを引っ捕える。ここが追い剥ぎ村だとわかったのなら、それを無視する訳にはいかない」
もしもここで取り逃せば、誰かが被害を被るのが容易に想像出来た。この決断はカンパニーの職員として、使命感に駆られているだけでなく、ソニック自身が、この事案をほっとける性分ではなかった事から来ていた。
しかしリヴィアは、呆れるように言う。
「あたし達がここに来たのは、駆除のクエストとしてよ?そういうのは討伐系や鎮圧系のクエストだから、一旦カンパニーに戻って、総務課から改めて発注し直した方がいいわ。それに戦闘課はあんたとあたしだけだし、他の職員も連れてくる方が現実的よ」
クエストの再発注はともかく、問題は戦力だ。村人全員が敵と過程しても、戦闘課の職員はソニックとリヴィアの二人だけだ。鎮圧するにも骨が折れる戦力差であった。
「奴らは俺たちがカンパニーの職員だってわかっている。逃がしたとわかれば、要請を受けた王国騎士が列挙して捕縛しにくると見て、雲隠れするはずだ」
「そうは言うけど……」
捕縛を優先するソニックと、
態勢立て直しを優先するリヴィア、
お互いの主張を譲る気配はなかった。
その様子を見守っていたシャーロットは、言い合いで熱くなりかけている二人を諌めるように割って入った。
「まぁ二人とも、今は落ち着くんだ。とにかく、今出来る事、やるべき事を考えよう。話はそれからだよ」
「……そうね。これじゃ出来る事も出来なくなるわ」
「……あぁ」
シャーロットに諭される形で、一旦ソニックとリヴィアは冷静になって、改めて状況確認を行なった。
まず、村人に捕縛されかかったところを寸でのところで回避し、今は離れを脱出して、別の家屋の影に隠れている状況。脱出する際、入ってきた物音と困惑する村人の声が聞こえたので、恐らく捕縛に失敗した事は、あちらも気が付いた模様だ。
次に、戦力としては、近接攻撃寄りのソニックと、中遠距離攻撃寄りのリヴィア、そして戦力と呼ぶには些か心許なさすぎるシャーロットの三人。
相手はこの村の住民全員。宴の席で見ても、ざっと15人から20人は居た。たまたま居なかった人員を頭数に加えるとなると、村に点在する家屋の数を見る限り、推定ではあるが多くて30人は居ると見ていい。その上相手が魔法を使わずとも、各々武器を持ってるとするなら、やはりこちらの部が悪い。
「……それでも、ソニーくんとリヴィアちゃんが頑張れば、鎮圧が出来ないでもない……けど、難しいだろうね」
前職を含めれば、ソニックは戦闘経験が豊富だし、大型モンスターを単独で倒した実績がある。リヴィアはソニックには劣るものの、戦闘課に恥じない実力を持っている。しかし相手は人間。犯罪者とて、殺さずに捕縛するのが慣例だ(無論例外はあるが、前例は少ない)。
さてどうしたものかと考えていると、ソニックはふと思い出したように言い出す。
「……そういえば、宴の席で、プラントテキーラが出てたな」
「?あぁ、そうだね。わたしは飲まなかったけど」
「それがどうしたの?まさかまた飲みたいって言いたいのかしら?」
酒飲みのソニックのことだから、そんな事思ってるんだろうと、リヴィアは冷ややかに睨む。
しかし当人は、至って真面目な面持ちで主張する。
「いや、そうじゃない。あれがあるという事は、ウツボーンもこの村にあるという可能性もある。それを利用してみないか?」
「……なるほど。あれほどたくさん振る舞えたと考えるなら、あるだろうね」
「……何の話かしら」
ソニックの提案に、納得するように頷くシャーロット。対してリヴィアは、ただ首を傾げるのみだった。
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