紡ぎ、築き上げる者たち

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「ウツボーンはプラントテキーラを醸造する為に必要な植物です。宴会に振る舞われた量から見るに、この村にあるのは必然。だけどウツボーンは、単にプラントテキーラの原料を作るだけじゃありません。 として、他のモンスターを捕食するという一面もあります」 食肉植物、それはウツボーンに分類されている植物の一種。 元々は食虫植物という、小さな昆虫を捕食して繁殖する植物だったが、いつしか進化の過程で、昆虫から小型、中型のモンスターを捕食するものになったと言われている。 プラントテキーラの原料になるのは、袋の口を塞ぐ葉が開く前のウツボーンが蓄えた分泌液で、この葉が開いてから、分泌液は消化液に変化する。 「とはいえ、獲物の大きさや量によっては、数週間たっても流石に溶かしきれない場合があります。処理が追いつかない時は、そこらへんの土にでも埋めたんでしょう?そのお陰で、埋めた場所の土壌が、ストレスのある土壌に変わってしまった。 そこに種子散布の要領でやってきた烙火生の種が、その土壌の中で成長し、繁殖。そして自生に至る、と……これは自然発生などではなく、間接的に人の手が加えられて、起きたものだったんです。 それが烙火生が繁殖した原因ですよ。村長?」 「っっ……!!」 烙火生が繁殖した原因を聞いていたはずなのに、いつの間にか、自分たちの悪行を(つまび)らかにされたような気がした。ただのカンパニーの職員であるはずのシャーロットが、どこぞの推理小説に登場する名探偵のように見え、村長を含めた村人たちは、思わず悪寒を感じた。 原因は、自分たちのしでかした事。 彼女の述べた通り、彼らはこの村に意図せず訪れた旅人を酒で酔わせてから捕えて、奴隷として売り飛ばすか、金品を盗んだ後で殺害して処理するなどして悪事を働いていた。 その際、死体はこのウツボーンに(ほう)り込んで処理させていたが、たまに処理が追いつかず、ウツボーンが枯れてしまう事態に陥った事があり、あまりにも多い場合は、溶け残っている死体を引きずり出し、村の外れに土深く埋めていた。 それがまずかった。そのせいで、烙火生が繁殖し始め、彼らの悪事が露呈するきっかけを作ってしまっていた。 「土壌は洗浄して、(たがや)しておけば繁殖することはないと思いますが……流石に無理でしょう。隠す場所が無くなるんですから。 どうでしょう?ここはいっそ、全てを自白して、自首でもなされては?これ以上悪事を重ねてしまったら、後々大変な事になりますよ?」 多少遠回しで、自分たちを気遣うような言い方だったが、それは決して受け入れられる提案ではなかった。 例え彼女の言う通り自首したところで、重ねた悪事は既に百犯では済まない程越えている。終身刑は確定しているだろう。 かといって、彼女の言う通りにしたフリをして、夜が明ける前に村を引き払って逃亡するにしても、未だ姿をくらましているカンパニーの連中が居る限り、村人全員が逃亡するのは絶望的。捕縛された村人から尋問によって居場所を吐かされ、芋づる式に捕縛される。そうなったら終身刑で済むかもわからない。 最早、ここまで。 ならば、どうするか、 村人たちは言葉を口にせずとも、既に結論に至っていた。 「……は、ははは、左様でございますか……よもやこのような事が……」 口火を切ったのは、村長。 口調は崩さず、しかし狼狽えるような声色のまま、二の句を継ぐ。 「わ、わたしもこの村の(おさ)を務めて長いのですが……このような形で明かされたのは、初めてでございます……」 蒼白に満ちた顔色、ごもりかけた口元から、捻り出したような声で喋り続けて、 「で、では……シャーロット殿のアドバイスに従い…… それから消えてもらいましょぉかぁぁぁ!!」 まるで狙い澄ましたような絶叫を放った。 その行動が合図の如く、いつの間にかシャーロットの背後に立っていた大男が、彼女を素早く羽交い締めにする。 シャーロットは大男の存在や、羽交い絞めされた事に驚きはしても、自身の腕力ではたかが知れている為、無理に抵抗せずに、大人しくしていた。 「っ……ついに本性を現したね」 「……ふん。貴様のような頭の回る女は、さぞ奴隷として高く売れるだろうがな」 先ほどまで丁寧だった村長の口調は、今や取り繕う必要がなかったと言わんばかりに、粗雑なものになっていた。 「しかし、わしらの所業がそこまでバレてしまえば、痛めつけて黙らせるだけでは済まない。ここで死んでもらうぞ」 「実に短絡的だね。それだけで全て丸く収まるとは思えないよ?」 シャーロットの言う通り、口封じにはまだ足りない。ソニックとリヴィアの居所が掴めなくては、いずれバレる事である。しかし村長改め、ボスは小馬鹿にするように鼻で笑う。 「無論わかっている。その為に貴様を人質にして、他の二人も捕まえる。殺すのはその後でも遅くはないからな」 「……なるほどね」 実に単純な話だった。同じカンパニーの職員である彼女を見殺しにするなんて事は、余程の薄情者か冷酷な思考の持ち主でもなければ出来ない。 現に、ソニックとリヴィアはそんな事は絶対にしないだろう。 「他の二人を探し出せ。この女を人質に取ってると言えば、大人しく従うはずだからな」 ボス達は既に、こちらに分があると確信した様子で、ソニックとリヴィアの行方を探す。後は煮るなり焼くなり、好きにできる。 と、そんな安易な考えだろうと思ったシャーロットは、呆れるように笑みをこぼした。 そして自分自身を羽交い絞めする大男に、質問を投げかける。 「……君は、ウツボーンの消化液の引火点がどれほどかわかるかな?」 「あ?引火点?」 羽交い絞めにされて、絶体絶命のはずなのに、何故飄々とした態度で質問を投げかけてくるのか、大男は面を食らうように、その質問を復唱した。 そんな大男に気に留める事無く、シャーロットは話を更に進めた。 「要はどの温度の火で燃えるかってやつさ。普通の可燃性液体ならマッチ一本でも点くようだけど……ウツボーンの場合は葉が開く前と後で違ってくるんだ。開く前だと、内包されている分泌液はただの無害なアルコールだから、燃え広がることはない。だけど、葉が開くタイミングで、分泌液は徐々に消化液に変化し、それに含まれているアルコールの度数が跳ね上がって、引火点も格段に上がるのさ。 で、葉の開いたウツボーンの場合だけど……まぁ個体差があるけど、烙火生の花くらいなら、余裕で点くかな?」 シャーロットが口端を吊り上げて言い切った瞬間、小屋すら揺れる程の衝撃と、空気を突き抜ける程の爆音が響いた。
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