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「な、何事だ!?」
ボスの男も含めた村人たちは、突如起きた爆音と衝撃に驚愕する。中にはあまりの出来事に腰を抜かす者も居た。
慌てて爆音がした方向に目を向けると、なんと村の中心にあたる箇所から、上に目掛けて立ち昇る猛烈な火柱が出現し、村全体を照らしていたのだ。
火属性魔法を用いたものか、と村人たちは思っていたが、実のところそうではないという事を、シャーロットだけは理解していた。
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村人たちを呼ぶ数十分前、シャーロットはソニックとリヴィアに、ある事を伝えていた。
倉庫から持ち出したウツボーンを、村の中心で燃やしてほしい。というものである。
二人はシャーロットが村人たちを呼ぶ頃合いになって、倉庫の中から育ち切って葉が開いたウツボーンを持ち出していた(なおその方法とは、ウツボーンの袋を支えるツルはソニックの風魔法で切断し、落ちてきた袋はリヴィアの水魔法で受け止めて運ぶというものである)。
しかし倉庫から取り出しても、ウツボーンから漂うアルコール特有の強烈な匂いは損なう事なく、リヴィアをしかめっ面にさせていた。
「……っ、外に出してるのに、まだ匂うわね」
「消化濃度が高い分、アルコール臭も強烈だろうな。まぁこの強烈さは、アルコール臭だけじゃ無さそうだが」
ソニックの言葉からリヴィアはおぞましい想像をしたのか、青ざめた面持ちで項垂れる。
「なんか、さっさと燃やしたくなったわ」
「まさに、荼毘に伏す感じだな」
二人は村の中央部分あたりまで移動し、ウツボーンの袋を設置する。火種の方は、シャーロットが持参していた魔道具で賄うことにした。
その形状はソフトボール程の小さな水晶玉。しかし扱い方を間違えれば、ソニック達も無事では済まない危険物だ。
水晶爆弾『クリスタルボム』。
見た目はやや透明感のある水晶玉だが、魔力を込めてから衝撃を与えた瞬間、爆発するという代物だ。普通の水晶玉とほぼ同じ姿形をしているが、魔力を込めた瞬間、赤く変色する特徴を持っている。魔力を込めるには相当な集中力を必要とする為か、余程下手な扱い方をしなければ、怪我をすることはないだろう。
「よし……魔法は落ちる直前で解除だ」
「わかったわ」
リヴィアに確認を取ってから、ソニックはクリスタルボムに魔力を注入し、透明色から赤色に変化した水晶玉を真上に投げた。
赤い水晶玉がすぐさま夜空に溶け込むと、二人はその場から離れる。
二人が安全圏まで離れたところで、赤い水晶玉は真下に向かって落下を開始した。
「…………」
その様子を見届けたリヴィアが手杖を軽く振るうと、支えとなっていた水が消え、ウツボーンの袋は横倒しになり、袋の中にあった消化液をばら撒くように溢した。
そしてばら撒かれた消化液が染み込んだ地面に、赤い水晶玉が激突。
一瞬重たい物が落ちたような音を発したかと思えば、
空気を劈く爆音と共に、ウツボーンの袋共々、巨大な火柱を形成させた。
それはクリスタルボムだけのものではない、ウツボーンの消化液に引火して起きた大爆発だった。
「っ……クリスタルボム一つでこの火力……えげつないわね」
「村の中心に、あの倉庫が無かったのが幸いだな」
仮にあの倉庫に火を放ったら、村なんて簡単に吹き飛ぶだろう。
今にして思えば、あそこはとんでもない危険地帯のようだ。
「ここからは、あんたの腕の見せ所ね」
「………ああ」
真っ赤に村を照らす火柱を見つめながら、ソニックは懐からあるものを取り出す。
それは牙を加工した角笛だった。
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「何をしている!?早くあの火を消せ!こっちに火種が飛んでくるぞ!」
現場は大混乱だった。
村人の誰もが、凄まじい熱気を放つ火柱に、動揺を隠せずにいたからだ。
そして何より、火気厳禁が常であるウツボーンが密集する倉庫に降り掛かって、一つだけでも引火してしまったら、あたり一面が火の海と化してしまう。現場が大混乱になるのも当然だった。
しかしその場で唯一、シャーロットだけは冷静だった。
可燃性の含んだ消化液の爆発から生じる威力や、そこから起きる付随効果も、彼女の概ね予想通りだったからだ。
「(村の中心部あたりなら、こっちに火種が飛ぶ確率はやや低い……ウツボーンを火気に近づかせない配慮くらいはしてるだろうから、村人は必死に守ろうとはするだろうね)」
轟々と燃え盛る火柱を見つめながら、淡々と爆発の威力を分析するシャーロット。やけに静かすぎるその反応に、ボスの男は奇異の目を向けながら問い詰める。
「おい。アレはどういう事だ?お前の仲間の仕業か?」
「さあ、私にもさっぱりだね。自然発火であれば説明がつくのだけど……ここは生憎活火山が近くにないからね」
さっぱりと言いつつ、その口振りはどうもわざとらしかった。
ボスは憎々しそうにシャーロットの下顎あたりを乱暴に掴む。
「ふん……余裕ぶってるのも今のうちだ。他の仲間を見つけた後には、我々に楯突いた事を後悔させてやる」
ただの脅しではない、澄み切った殺意を向けた上での言葉。常人ならば震え上がるものだが、シャーロットは全く意にも介さず、下顎を掴まれたまま口を開いた。
「はは……それは真に恐ろしいものを見てから言うべきだよ。こんなもの、人の芸当じゃ出来るわけがないだろう?」
「っ、なにを言って……?」
更に言い放とうとして、思わず静止する。
火柱の方から聞こえる、わずかに聞こえる音、
唸るような、震えるような重たい音、
それはまるで、大型のモンスターが発するような唸り声にも聞こえる。
「ぼ、ボス……あれを……!」
村人の一人が、青ざめた表情で火柱の方向を指差す。
それに合わせて、ボスの男も目を向ける。
それは、巨影。
村の家屋すら上回るほどの巨影だ。夜闇によって消していたのが不思議なくらいの大きさだったが、火柱によって辺りを照らされた事で、その巨影の正体が彼らの目の前ではっきりと暴かれた。
その身は、さながら水晶の如く透き通った姿で構成されており、宝石のような煌びやかさすら錯覚する姿を見せつけていたが、その巨躯の主は、決して見惚れるようなものではなかった。
鋭い爪を生やした腕と脚、
大型の生物すら容易くかみ砕けそうな強靭な牙、
あらゆる攻撃を弾きそうな硬い鱗、
そこいらの樹木にも匹敵する程の太い尻尾。
その巨影……巨躯の主の正体は。
ドラゴンであった。
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