ちょっと苦いオレンジゼリー、チョコレートケーキを添えて

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 中学生の妹と喧嘩をした。喧嘩をするのは別に珍しいことではないのだけれど、今回はなんとなく謝れないでいる。  いつもならどちらかの服を勝手に着ただとかテレビのチャンネルを勝手に変えただとか些細なことで口論になって、そしてそういう喧嘩は大抵すぐに笑い話になってしまう。  今回の一件は私が悪いのだと自覚している。  きっかけは、妹にもらった手作りのブックカバーを友達との卒業旅行の間に失くしたことだ。妹は手先が器用で縫い物や編み物をしては作りすぎたと私にくれるのだけれど、その妹の器用さは私と正反対で、私はそれがずっと羨ましかった。昔一緒に習い始めたピアノも妹の方がどんどん上手くなって、比べられるのが辛くなって私だけ辞めてしまった。さらに言えば妹の方が可愛いし愛嬌もあって、みんなに好かれるタイプだ。私は世渡りの上手い方ではないし料理なんかも苦手で、唯一妹に勝てるのは学校の成績くらいだと思っている。高校受験の頃にそれに気づいて勉強を頑張ってみたけれど、親や先生から褒められてもどこか虚しかった。それはたぶん、もらった褒め言葉に自分で「勉強『は』できるのね」という含みを加えてしまうせいだ。そしてそういうときには妹の顔が浮かぶ。  来週には上京して新生活を始めるのだし今のうちにきちんと謝っておかないとと思い続けてもうしばらく経つのだけれど、今回はつい妹に八つ当たりをしてしまって、そんな自分が情けないやら恥ずかしいやらで謝りそびれているのだ。幼稚な嫉妬がやましくてリビングで顔を合わせてもなんとなく声をかけづらいし、ピアノの発表会前だという妹は妹でピリピリしているようだった。
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