「悪夢の罰ゲーム」*樹

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「悪夢の罰ゲーム」*樹

 悪夢だ。  もう、こんなの。悪夢だとしか、言いようがない。 ◇ ◇ ◇ ◇  大学のクラスメート達はノリのいい奴が多くて、集まりが好きな奴が多いクラスだった。  結構ちょくちょく誘われて、何回か断ってたので、今日は参加する事にしたら、蓮も参加になった。  浪人して20才を超えてる奴もいるし、酒は各自、自己判断。  蓮とオレは、ノンアルコールで過ごしていた。  盛り上がった連中が始めた「王様ゲーム」。  クジで、王様とそれ以外の番号を決める。王様になった奴が、番号を適当に言って、何をしろという命令を出す。  普段なら絶対に参加しない、このくだらないゲームに、何故だかすっかり勝手に参加させられる事になっていて。  抗議したら、1回だけ、なんてそんな言葉に乗せられた。    1回だけなら、まあ、その番号に当たらなければいい訳で。  じゃあ、1回だけ、なんて言って、オレも蓮も、そのゲームに参加した。  挙げ句。王様になった奴は。 「3番が5番にディープキス」  なんて、ふざけた命令を出した。  3番が蓮で、5番がオレ。  つまり、 蓮がオレに、ディープキス。  誰が王様になるかが、重要な所……。   むちゃくちゃを言うやつが王様になってしまった場合、今回のように最悪な事態が起こる。  こんなに人数が居るのに、何で、こんなのに、蓮と一緒に当たるんだろ。  変な運命に、めまいがする。  ……そして。  やっぱりゲームだから。  嫌だとか言ってると興ざめしてしまう事は、否めない。  でも。興ざめされようが、なんだろうが。 「ぜったい嫌だ。命令変えろよ」  オレはそう言って、王様になったクラスメートを険しい顔で見つめた。 ◇ ◇ ◇ ◇  ある日、突然、蓮にキスされて。すごく驚きはしたけれど。  何も言わない蓮に、オレも、何も言わなかった。  それからずっと。ふとした拍子にキスされる。  例えば好きだからとか、そんな言葉も全く無くて。  ただ、繰り返されるキス。  何で、キスなんかしたいんだろう。  何で、オレに、キスするんだろう。  何でオレは、黙ってキスされてるんだろう。  ……たくさん疑問はあるのだけれど、それを話した事はない。  別に嫌じゃない。  すごくしたいとも思わないけど、しばらくキスされないと、あれ?と思う。  もうやめたのかな?なんて思って。でもやっぱり聞かずに時を過ごして。  またキスされると、ああ、まだ続くんだ、とか思って。  何となくホッとしたような気持ちになったり。  意味とか理屈とか、そういうの、全然訳が分からない行為で。 「――――…」  キス、といっても。  最初はほんとに触れあうだけだった。  そして、そのキスが触れている時間が、本当に少しだけ長くなった位で。  触れてるだけの、優しいキス。  こんなのおかしいのかなと思いながらも、核心に触れる事もなく。  キスを続けてきた。  だから。  王様ゲームなんかで、人前で、  それ以上のキスをさせられる事なんて、絶対嫌だった。  こんなの、蓮以外と当たったなら、まだマシだったのに。  蓮とだけは、やだ。 「なんで、男同士でディープキスなんてしないといけないんだよ! 男と女でなかった時点で無効にしろよ!」 「んだ、樹ー? 王様に逆らうのかー?」 「うるさい、絶対無効!」 「残念でした、無効なんかしねえよー♪ んな事してたらつまんねえじゃん。オレらだって、キスした事あるよなっ?」  現在の「王様」の橋本は、隣りに居た佐藤に、呼びかける。すると佐藤もまた、思い出したように嫌そうな顔を浮かべる。 「あるある! 樹もゲームなんだから、ちゃんとやれよな?」 「そーだよ、1回だけはゲーム参加するって言ったんだからさ」 「いやだからって拒否ってたら、ゲーム、つまんねえじゃん!」  逆に猛抗議を受けて、ぐっと言葉に詰まる。  ていうか、こんな命令、出す奴がいけないんだ!  言おうとした瞬間、隣で黙ってた蓮が、ため息を付いた。 「……樹、しよっか。こいつら変えないだろうし」  今までずっと黙っていた蓮。  苦笑いとともに、オレに呼びかける。  その言葉に、目が点になった。 「お前、オレに、そんなこと出来るの?」  うそでしょ?  蓮をガン見していると、蓮はまたため息。 「――――……出来るよ、別に。 こいつら相手でも出来るし」  嫌そうに、橋本と佐藤を親指で指す蓮に、言葉が出ない。 「……なあ、おーさま。 樹、こんな嫌がってるし、相手変えちゃだめか?」  蓮がそんなことを言う。  オレは、隣の蓮をマジマジと見てしまう。  ……ちょっと待って。  ……相手、変えるって。  ――――……相手かえるって……。  蓮、オレの目の前で、他の奴とキスすんの…?  咄嗟に浮かんだ、その気持ち。  ――――……整理しきれなくて、ただ、蓮を見つめていると。 「オレとキスしたい奴、いるー?」  蓮がそう言った。周りがわっと湧く。  女子はキャーキャー言ってるし、男子は要らん要らんと騒いでる。  盛り上げるの、ほんと、上手……。  ――――……こういうのが、蓮なんだと、思ってた。  直接話すまで、人に囲まれて、中心で騒いで、とにかく楽しそうな。   「女子選ぶのばどーかと思うから、男子選んでいいだろ?」  蓮に吟味され始めた男達は、「いやいやオレらは良いから」「樹にやってくれ」と辞退している。  しばらく、混沌とした大騒ぎが続いていたけれど。  王様の橋本が、首を振った。 「だめだって。そんな我が儘で変えてたら、このゲーム何も面白くないじゃんか」 「でも、ここまで嫌がられると、オレもやりにくいっつーか……」  ちら、と蓮に見られて。  オレは、む、と唇を噛んだ。 「……オレ、2度と、このゲームには参加しないから」  オレがそう言うと、苦笑いの周囲。  けれどその言葉を、渋々ながらも了解と判断した皆は、一気に盛り上がる。  ゲームに参加してなかった奴らまで、見物にきている始末。 「いいの、樹? 相手変えるまでごねてもいーよ?」  蓮が、オレを見つめて、そう言う。 「……もーいいよ」  ……つか、蓮が他の奴とキスすることになっちゃうじゃんか。  ………よく考えたら、普段軽いキスはしてるし。  耐えられなくは、ないんじゃないだろうか。うん。   人前って言うのが、嫌すぎるけど。  ああ、もう、本当に、参加するんじゃなかった……。
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