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「おカネじゃなくておハゲかよ! 紛らわしいんだよ!」
給料日前につきカツカツで過ごしていた男は、ぬか喜びのお返しとばかりに、そのハゲを拾って川に投げ捨てようとした……のだが、振り下ろした手はハゲを掴んだままだった。
男の脳裏に浮かんだのは、数年前に亡くなった父親の面影。
若くして天国に旅立った父親の頭もまた、綺麗なM字ハゲだったのだ。
「ったく、しょうがねーなーもう……」
最初から無視しとけば良かったと後悔しながら、男はハゲを持って近くの交番へと歩き出した。
「すみませーん」
男が交番に入ると、優しそうなベテラン警官が声をかけてきた。
「ん? お兄さんどうかした?」
「いや、川の近くの道に落ちてたこれを拾って……」
男は鞄の中からM字ハゲを取りだして警官に見せた。
「ああ、ハゲかい。財布なんかはしょっちゅう来るが、M字ハゲとは珍しいねえ。まっ、落ちてないハゲならそこら中で見かけるけども」
そう言って警官は豪快に笑った。
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